冒険家と書店経営という組み合わせは、なかなかレアなコンビネーションである。冒険家で本を書く人は少なくないが、書店を経営している人は他に例がない。しかし、荻田さんは「自分にとって冒険と読書は同じだ」と言う。
え、そうかな? と思っていると、荻田さんは、こんなふうに話し始めた。
「冒険っていうと、みんな身体的表現にばっかり目がいくわけです。疲れたとか痛いとか。でもそれは身体的表現の方で、その前に探検には知的情熱があるわけです。見たことがないものを見たい、遠いどこかに行きたい。知らないことを知りたい。つまりは好奇心です。それを身体的に表現したら『探検』ということになる。だから冒険と読書は、身体的表現という側面だけを見たらまったく違うんだけれど、知的情熱という意味ではまったく一緒なんですよね」
確かに……。探検家や冒険家はただ無謀にどこかの荒野に突っ込んでいくわけではない。自分の好奇心を羅針盤に、まだ見ぬ風景に思いを馳せ、目指す地に到達できるような装備を整え、体を鍛える。
「この本の最後のページにこんなことが書いてあります」
荻田さんが見せてくれたのは、名著『世界最悪の旅―スコット南極探検隊』に書かれた言葉。
――探検とは知的情熱の身体的表現である――
本の著者は、ロバート・F・スコットを隊長とするイギリス南極探検隊(以下スコット隊)に参加したチェリー・ガラードである。少し長くなるが、荻田さんの言葉の背景を理解するためにこの本の背景をおさらいしたい。