それでもアマノジャクな私は、まだ不思議だった。読書が好きならば、自分の家で好きなだけ読めばいいじゃないか。なにも書店を開いて誰かに売るなんてややこしいとをしなくても良いはずだ。そんな疑問をストレートにぶつけると、荻田さんはこう答えた。
「その理由は、自分も“場”が欲しかったんだと思います。別に群れたいとか仲間が欲しいとかってわけでもないんですけど。自分は思えばいつもひとりだったんですよね」
―――自分は、ひとりだった―――
その言葉を理解するために、ここで「冒険家・荻田泰永」の歴史を少しだけ紐解いてみたい。
荻田さんが22歳で最初に北極に行くきっかけになったのは、冒険家・大場満郎さんである。大場さんは1997年、世界で初めて単独徒歩による北極海横断に成功した人物だ。さらに1999年には、単独徒歩による南極横断を行い、北極点と南極点の両方に立った。その翌年となる2000年、大場さんは「北磁極を目指す冒険ウォーク2000」を企画し、冒険の素人である若者たちを連れて、700キロの道のりを徒歩で踏破するという挑戦を行った。その若者のひとりが、大学を中退し、何をやりたいのかがわからない荻田さんだった。
荻田さんはたまたまテレビ番組でこの計画のことを知り、参加した。
あの時の私は、エネルギーを抱えながら向け場がわからず悶々としていたのに、このテレビの中の冒険家と呼ばれる人は、溢れるエネルギーを一方的に強く向けているように映り、その姿に羨ましさと憧れを抱いた(『考える脚』(荻田泰永著)より)