未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
202

漕ぎ出そう!読み、知り、書くという冒険へ ~冒険研究所書店と本屋・生活綴方の物語~

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
一部写真提供:荻田泰永、本屋・生活綴方

未知の細道 No.202 |25 January 2022
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#5ひとりで南極点に立つ

北磁極ウォークのあと、荻田さんはひとりで北極に通うようになった。とはいえ大場さんは別に師匠という存在ではなかった。だから極地への冒険を成功させる答えは自分で見つけるしかない。荻田さんは、いろんな人に話を聞き、また本を読み漁り、自分の信じる方法をひとつずつ実行に移した。

そうして極地での経験を重ねた荻田さんは、無補給単独徒歩による北極点への到達に挑戦するようになる。必要な物資をソリに積み己の力で引っ張るという最も過酷なタイプの冒険である。

写真提供:荻田泰永

2012年、2014年と挑戦を続けたが、どちらも途中で断念。しかし、一方で2016年にはカナダのグリスフィヨルドからグリーンランド領のシオラパルクにまたがるスミス海峡の徒歩横断に成功。これはおそらく世界初の快挙だと言われる。

写真提供:荻田泰永

続く2017年には、南極に遠征することを決意。日本人としては成功例のない無補給単独徒歩による南極点の到達を目指した。アムンセンとスコットが南極点に立った116年後、荻田さんはたったひとりで南極点に立っていた。

写真提供:荻田泰永

「日本人初」の快挙に世間は大いに沸いた。私も、テレビ番組『クレイジージャーニー』でこの冒険の映像を見て興奮したひとりである。番組のなかで特に印象的だったのは、荻田さんの妙にリラックスした態度だった。いま思うと、それは極地を特別視しない荻田さんらしい飾らない姿だったわけだ。なにしろ彼にとって冒険の日々は日常のひとつなのだ。なにはともあれ、もうおわかりだろう。荻田さんは日本を代表する冒険家である。その荻田さんが「場を作りたい」と開いたのがこの本屋なのである。

「若いときは自分が他の冒険家なんかに相談に行く立場だったけど、最近は自分が若い子たちをどこかに連れて行く機会も増えて、また冒険の相談に来る若者が増えてくるようになってきました。だったら、そうか、俺がそういう場を作ればいいかなって。誰でも出入り自由で、人や情報が集まってくる部室みたいなもの。知らないやつもいて、新しく出会いが起きたりする、そんな場を作りたいなと思った」

冒険研究所書店には、ギャラリースペースもある。

そういうことだったのか。極地への冒険を繰り返し、40代も半ばに差しかかった荻田さん。彼は少しずつ次の世代に冒険というバトンを渡そうとしているのかもしれない。

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