原材料への思いは先代からの教えとのことだが、大豆や塩に対する思いも半端ではない。しかも石黒さんの素晴らしいところは、なんとなく麹は身体にいい、みたいな感覚的なものではなく、ほとんどのことがデータに基づいている。研究機関での調査も、気になることがあればその都度しつこく調べるといって、さまざまな資料を見せてくれた。
「そうそう、そういえば講演会でこんなことをおっしゃる人がいたんですよ。わたしが麹は60度になると死んでしまいます、酵素も65〜70度でほぼ死活しますと言ったらね、『だから僕は40度のぬるい味噌汁を飲んでいます』と言うんです」
たしかに、熱々に沸かしたところへ味噌を入れてしまうと、それまで生きていた麹菌は力を失ってしまう。
「いや、でもちょっとそれは待ってくださいよって言いましたよ。たしかにそれは正しいですよ。でも、ぬるいお味噌汁っておいしいですか? 別においしいならいいですけど、やっぱり煮えばなに味噌を入れてね、湯気がふわっと立っている熱々の味噌汁を飲みたいじゃないですか。健康のためにね、毎日ぬるい味噌汁をまずいなあって思いながら飲むより、わたしは熱い味噌汁を飲みたいですよ。90度くらいのころがいちばん香りもいいし、おいしいねって笑いながら楽しい食卓で召し上がっていただきたいです」
こだわり、というのは難しい。健康的であることを求めすぎると、なにか別のものを失ってしまうこともあるし、排除しすぎてしまうこともある。どんな健康食でもおいしくないと続かないし、おいしくないと日々感じるだけで健康が損なわれそうな気もしてしまう。
なんでもそこそこに、というのがいいのかな、というのは、適当という言葉が大好きなわたしの考えである。