でも、そこまで終わればゴールは近い。麹と塩をよくよく混ぜておき、潰した大豆を入れて、子ども用のボールくらいのサイズに丸めていく。それを、消毒したカメに投げ入れるのだ(空気を抜くためでストレス発散のためではない)。あとは上からカビ防止のための塩をならせば完成となる。
もちろん、こんなにたくさん仕込まなければもっと平和だ。茹でて潰して混ぜるだけなので、仕上がりが5 キロくらいでいいならば、「これで本当にお味噌になるの?」と思うくらいあっさり終わるし、1キロくらいならジッパーつきの保存袋でも仕込める。
ちなみに、「手前味噌」という言葉は、自分や身内のことを自慢するときに使う。自家製味噌のおいしさを褒めあったことからきているのだが、そんな表現ができるほど、自分で作った味噌は誇らしい。
はじめて味噌ができあがったときは、わたしも本当に嬉しかった。買うのが当たり前だったものが自分の手で作れるなんて、思ってもみなかったのだ。そしてこの世にあるほとんどのものを人間が作っている、ということについて改めて考え、その気になればなんでも自分で作れるような気がした。
ところが、そうして何年か味噌作りをしているうち、あることに気がついた。味噌作りには欠かせない麹というものについて、だ。麹は味噌作りだけではなく、醤油にもみりんにもお酢にも日本酒にも必要で、日本料理を支えている存在と言ってもいいはずなのに、なんだかぼんやりとしか正体がわからない。
いくつかの辞書で調べたものをまとめると、
麹(こうじ)
米や麦、大豆などを蒸して室の中にねかせ、麹菌(コウジカビ)を繁殖させたもの。酒や醤油、みりんなどの醸造に用いる。
ということになる。味噌作りに使うのは米麹だから、米にカビを繁殖させたものということになるのだろうが、それでは麹菌とはなんなのだろう。
麹菌(こうじきん)
コウジカビのこと。菌糸は枝分かれし、その先に放射状に胞子をつける。多くの酵素を含み、デンプン・タンパク質などを分解するので、酒・醤油の醸造などに利用される。
全然ピンとこない。
整理すると、つまりお米がカビたもの、ということでいいのかしら……。
と、前置きが長くて恐縮だが、そんな経緯をたどり、わたしは麹を作っている種麹屋の石黒さんに会いに行ったのだった。