たしかに思い返してみると、石黒さんの麹で作ったときの味噌はしっとりと柔らかくて、とろりとしている。
実は味噌作りをしているさなかに大豆を潰すのが面倒になってきて、「多少粒が残ってもいいや」と投げやりになるので、我が家の味噌には豆の形が残ることが多いのだが、石黒さんの麹で作ったときに限ってそれがない。麹の仕入れ先以外はなにも変えていないのに、質感がまるで違うのだ。
「総破精(そうはぜ)といってね、蒸したお米がすべてはぜている麹だからなんです。一粒一粒の麹が力強いんです。今は90%以上の麹が機械で作られていますが、塗り破精といって、表面しかはぜていない状態の麹も売られているんです。使ってみればわかりますが、全然違うものなんですよ」
石黒さんご自身が作って販売している味噌も、柔らかくてうまみが強い。なかでも「麹職人のこだわり味噌」は、麹の量が大豆よりも多いという、ちょっと普通では考えられない配合で、ディップとしてそのまま食べたいくらいおいしい。
「お味噌作りのコツってなんでしょう?」
そう尋ねると、石黒さんは意外にも「材料ですよ」と言った。
「そのときに手に入る最高のもので作るのが、いちばんおいしくできるコツです。もちろんね、技術もだいじなところはあると思いますけどね、やっぱり原材料ですよ。それから添加物を入れないことです。世の中のお味噌を見るとわかりますが、酒精が入っているものがあります。アルコールです。これは、味噌から炭酸ガスが出てパッケージが破裂しないように入れるんですけど、それによって麹菌も酵母菌も乳酸菌も、身体にいい菌がぜんぶ死んでしまうんですよ」