廊下の反対側の端にも同じような奥まったスペースがある。でもそこは隠し扉もなく、ちょっと探せばすぐばれそうだ。僕が拍子抜けしたのを感じたのだろう。佐藤さんは四度目のニヤリ。
「床を見てください。この板を取り外すと人が入れるようになっていて、床下を通って家の外に出られるようになっているんです」
なんと! ということは、僕が誰かを狙う侵入者だとしたら、奥まったスペースを見つけてテンションが上がる→でも誰もいない→舌打ちをして違うところを探すという反応をして、床下に潜った標的を取り逃がすことになる。してやられた!
忍者屋敷の仕掛けにまんまと翻弄される現代人の僕。わかりやすく楽しめる忍者のテーマパークは数あれど、忍者の凄みを感じられるのはこの忍者屋敷だけだろう。屋敷のなかはかなり古びているけど、余計な手が加えられていないからこそのリアルがある。
ここに紹介しきれない分も含めて、屋敷の仕掛けや屋敷に遺された歴史の痕跡について教えてもらうたびにテンションが上がり、あっという間に1時間が経っていた。忍者の衣装から私服に着替えたら、江戸時代から現世に戻ってきたような気分だった。
忍者屋敷を出ると、すっかり日が暮れていた。屋敷に通じる細い路地を歩きながら、かつては本物の忍者が同じ道を行き来していたのかと思うと不思議な気持ちだった。後ろを振り返ると、佐藤さんが見送ってくれていた。見張り穴がキラリと光ったように見えたのは、気のせいだろう。