未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
198

弘前藩の忍者集団「早道之者」に翻弄されるの巻 ドキッ!仕掛けだらけのリアル忍者屋敷

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.198 |25 November 2021
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#6残念ながら忍者には向いていなかった

さあ、ここから忍者屋敷ツアーを始めよう。屋敷の内部も、見た目はただの古い民家。でも、玄関の土間から見張り穴があったところを確認すると、人間がひとり寝転がれるような狭いスペースがあり、そこに小さな穴が開いている!

玄関にある見張り穴。

よく見ると、木材が四角に削り取られていることがわかる。これは、偶然できた穴ではない。忍者が横たわりながら、表を監視していたのだろう。想像すると、手のひらに汗をかいた。閉所恐怖症の僕には耐えられない……。こうして僕は、ツアー開始から5分で忍者失格と自覚した。

オーナーの佐藤さん。観光ガイドのボランティアもしている。

でも、忍者気分は味わいたい。僕は、「着替えていいですか?」と佐藤さんに尋ねた。「忍者の衣装を着たい」と、事前にリクエストしていたのだ。ちなみに衣装レンタルは1000円。もちろん、自腹だ。囲炉裏のある居間で、黙々と着替える。僕だけ着るのかと思ったら、佐藤さんも忍者になってくれた。カメラを向けると、木刀を持ってポーズをとってくれる。気さく!

土間には畳が立てかけられていて、穴だらけの的が貼られている。「さあ、やってみましょう」と佐藤さんから手渡されたのは、手裏剣。手裏剣というと海の生物ヒトデのような形をしたものを思い浮かべるだろう。それは「車剣」と呼ばれるもので、僕が手にしたのは鉄の棒の先端が尖っている「棒手裏剣」。

この棒手裏剣が、めちゃくちゃ難しい。中指に沿うように親指で挟み、手を上からまっすぐ振り下ろす。そう教わっているのに、手が野球の投球のように斜めに下りてしまう。そうなると棒が斜めに回転して、畳に跳ね返される。佐藤さんはさすがに慣れていて、ドスッと鈍い音を立てて手裏剣が的に突き刺さると、ニヤリ。泥棒も、この屋敷に侵入するのは避けた方がいい。僕は何度か投げて、一度だけ、的に刺さった。やっぱり、忍者には向いていないようだ。

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