未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
198

弘前藩の忍者集団「早道之者」に翻弄されるの巻 ドキッ!仕掛けだらけのリアル忍者屋敷

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.198 |25 November 2021
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#5退職金を全額投じて購入

滋賀県にある甲賀流忍者屋敷は忍者の子孫が建てたもので、実際に活動拠点として使われ、現存する忍者屋敷は国内唯一とみられることから、清川教授らは弘前市に文化財として保存するように求めた。しかし、住居として使われていた時代に増改築が行われたことを理由に認められなかった。

そこで、清川教授を中心に忍者屋敷のツアーが行われるようになったが、屋敷が老朽化し、維持管理に手がかかるため、所有者の三姉妹は手放すことを決意。なかなか買い手が現れず、大手不動産観光部による購入の話も2020年3月にコロナ禍によりキャンセルとなった。そして2020年5月、名乗りを上げたのが佐藤さんだ。

「弘前市の公務員、弘前市民として、価値があるものは残さなきゃいけないと思ったんですよね。退職金の2000万円と貯金100万円の合計2100万円で購入しました」

弘前城のお堀。江戸時代の姿をほぼ完全にとどめているとされる。

弘前城や弘前市役所からほど近く、屋敷だけで約120平方メートル、敷地は618.18平方メートルの広さがあるとはいえ、江戸時代に建てられた空き家の価格としては明らかに高いと思う。それでもかまわないという佐藤さんの男気で購入が決まった時には取り壊しの危機が回避されたと全国紙で報じられた。

佐藤さんが忍者屋敷を購入してから、ちょうど1年。市役所を定年退職した後も再任用制度で働き続けているため、主に土日祝日に忍者体験会が開かれている。僕が取材に行った日は平日で、仕事を終えた後に自転車で駆けつけてくれたのだ。

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