畳張りの居間に戻る。佐藤さんが、一部だけ板張りになっている場所を指して、「ここに乗ってください」という。板の上に足を乗せると、ギギギギッと板がきしむようなけっこう大きな音が響いた。僕の体重のせいではない。続いて、佐藤さんが足を乗せても同じような音がした。これは、侵入者を知られるように作られた仕掛けで、「うぐいす張り」という。
うぐいす張りについて、面白い記事を見つけた。2017年12月27日に朝日新聞デジタルに掲載された記事【城や寺の「うぐいす張り」、実は「忍び返し」ではない?】によると、もともと4つの建物をつなぐ約550メートルの廊下がうぐいす張りとされた京都の知恩院では、2011年に修理を終えてから1つの建物で音が鳴らなくなった。老朽化で床板を固定する金具が緩んで音がなっていたことがわかったそうだ。
忍者屋敷はどうだろう。居間に入る人が最初の一歩を踏み出す位置だけが板張りになっている。侵入するとしたら夜の暗い時間帯だろうから、気づかずに板を踏んでしまう可能性が高い。それに、足を乗せた時に鳴る音が、でかい。これはやはり、人為的に作られた「うぐいす張り」だと想像する。
忍者屋敷のツアーはまだまだ続く。居間の奥の部屋にある、なんの変哲もない押し入れ。佐藤さんが「ここを見てください」と懐中電灯で上部に貼られた板を照らすと、痩せた人間がひとり通れるほどの隙間が空いていた。外からは見えない天袋があって、板の隙間を通って隠れられるようになっているのだ!
この天袋は、僕の体格では絶対に入ることができない。忍者ってよっぽど小柄だったんだなと思って調べてみたら、江戸時代の日本人男性の平均身長は160センチに満たなかったようだ。忍者は身体を極限まで鍛えているだろうから、体重も軽いはず。だから狭くて脆そうな隠し天袋にも身を潜めることができたのだろう。