ふたりは慶応義塾大学の同級生で、共通の関心を持っていた。「教育」だ。安井さんは幼少期にイギリスにいて、周囲になじもうと必死で身につけた英語が、日本に戻ったらその英語が気持ち悪いと言われてしまったという思い出がある。それが、馴染めなさの原因になってしまった。
「結局、自分がイキイキできるかどうかって、環境とか周りの人たちがどう関わってくれるかによって変わるよね、と思っていました」
大学に進学してからも、楽しく過ごしながらなにか物足りない。でも、なにがしたいかわからないと迷走している時期に、周囲の人たちから「Teach for Japanどう?」と勧められて、まだ立ち上がったばかりのNPOに参加した。
Teach for Japanは、アメリカにある教育NPO「Teach for america」の支部で、アメリカでは大学を卒業したばかりの新卒者を2年間、アメリカ各地の教育困難地域にある公立学校に常勤講師として派遣するというプログラムを展開している。同様のプログラムを日本でも、というところから、Teach for Japanはスタートした。安井さんはここで教育に目覚めた。
「大学やサークルで、気になっている社会問題について話したりすると『意識が高い』って疎まれる空気がありました。でも、Teach for Japanにいた人たちは自分以上に社会問題について議論している人たちの集まりでした。気を遣わずに本音で話すことができて、居心地の良さを感じました。そんな経緯なので、教育はたまたま情熱を向けた対象だったのですが、知れば知るほど複雑で、使命感が湧いてきて、気付いたら今までのめり込んでいます」
遠又さんもまた、自身の海外経験が教育に携わるきっかけになった。父親の仕事の都合で幼い時ロシアに住んでいたこともあり、海外生活に関心があった遠又さんは、高校生の時、アラスカにある人口2000人ほどの小さな町に留学した。そこは自分の意志で移住してきて、独立心の強い住民が多かったこともあり、町の人たちに「なぜここにきたのか?」と問われることが多かった。
そこで「大学受験のため」と答えれば、「そんなに大学入るのって大事なの?」と聞かれ、「通訳になりたい」と言えば、「なんで?」と問い返される毎日で、そのうちに「将来のことを考えるのって大切なことだな」と感じるようになった。
ところが、日本に帰ると重視されるのは偏差値で、「英語が得意だから東京外国語大学は?」とスキルで進路が振り分けられていく。その違和感があまりに大きくて、「その人の人生に寄り添った学びの方法はないのかな?」という疑問から、大学では様々な形の教育のあり方に触れた。
「高校は普通の進学校で、とにかく東大に行くことが善みたいなカルチャーでした。でも、それは違うでしょうと感じていましたね。それで、いろいろな学びのあり方があったらいいなと思って、大学でも模索していました」