フォルケホイスコーレに惚れ込んだふたりは、旅の最終日、空いていた教室を借りて事業計画を練った。
ただし、そのまますぐに起業しよう! とはならなかった。
帰国したふたりは、まずは世代や属性を超えたフォルケホイスコーレ的な学びのニーズを探ろうと、仕事を続けながらイベントを始めた。また、改めてフォルケホイスコーレとはなにかを吸収するために本を読んだり、実際に通ったことがある人にヒアリングをしたりした。イベントをすると確かな手ごたえがあり、フォルケホイスコーレのことを知れば知るほど、「今の日本に必要だ」と思えた。
もともと「リクルートはいつか教育に携わるための修行期間」と考えていた安井さんは、「まずは公教育について知ろう」と、2018年、一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォームに転職。島根県に移住して、「地域みらい留学」の事業づくりに従事した。そこで出会った人たちから、背中を押してもらったという。
「東京で起業するとなると、上場だ、資金調達だというイメージがあったんですけど、地方は生業を沢山持って自由に生きている人がいたり、それぞれがそれぞれの生き方をしていて成り立っていました。そっちの方がかっこいいし、それなら起業のハードルもそんなに高くないって感じました。それに島根の事業では教育に身を捧げている人たちとも出会って、その人たちに恥じない生き方をしようって思えたんですよね」
遠又さんは、まず自分の働き方を見直した。それまで外資系コンサルティングファームでバリバリ働いていたが、いずれ起業するなら、昇進や給料アップを目指して必死に働く必要もない。余裕ができた時間を使い、同じく2018年3月、東京で半年間の起業家向けのゼミに通い始めた。ほかの参加者は全員起業家で、ゼミでの学びをすぐに自分の事業に反映しているなかで、事業計画と想いしかなかった遠又さんは「けっこうしんどかった」。
2018年8月、迎えたゼミ最終日。ふたりの今後を決する、ある出来事があった。
「早紀ちゃんも上京していたから、一緒にプレゼンをしたんです。でも、自分の事業をどんどんブラッシュアップして、その成果を発表したほかの参加者と比べると、自分たちはほとんど進展していなくて、あまりのノロノロ具合に悲しくなって、号泣しちゃいました。その時に、『もうやめるか、趣味でやるか、起業するか、どうする?』と早紀ちゃんに聞いたら、私はする気だよっていうから、それなら来年3月に仕事辞めて、ふたりで起業しようって決めたんです」