デンマークは国としてこの学校を支援していて、国内に約70校あるほか、北欧諸国にも約300校存在する。そこで、日本では見られないような風景を目の当たりにした安井さんは、「最初は不思議な感じがした」と振り返る。
「高校卒業したての若い子から、私たち世代のキャリアを一度考え直そうみたいな人から、おじいちゃんみたいな人も、みんな一緒に暮らしてる場所って、日本にはないじゃないですか。しかもコーヒー飲みながらクッキー食べながらおしゃべりしていて、それを聞いてみると、若者が大人に相談してるわけではなく、おじいちゃんが相談してたり、受けたばかりの授業の話をしてたり、めちゃくちゃフラットな関係でゆったりしていて。こんな時間があるんだって」(安井)
遠又さんは、スタッフとの会話を重ねるごとに、「自分を問われた」という。
「私も、みんなに自分らしく生きて欲しいと思ってるけど、そうは言っても一部の人しかそういうことはできないよなと思っている自分もいました。そこで、『みんな生きてる意味あるよね、それが前提じゃないと社会作れないじゃん』と言われて。会社も、なんでそれしか休めないの? と聞かれて、会社の人に迷惑がかかるからっていうと、そんなにあなたを縛り付けるものが重要なの?って。成長や成功を良しとするアメリカや日本と根本の考え方が真逆だと感じて、自分がいかにアメリカや日本の考え方に染まっているのかを実感しました」
日本人的な感覚だと、テストも成績もなく、様々なバックグラウンドを持つ人たちが伸び伸びと学び、暮らす「フォルケホイスコーレ」の話を聞くと、学歴や出世争いから離脱して、モラトリアムを過ごしているようにも聞こえる。ふたりに率直にそう言うと、遠又さんがほほ笑んだ。
「私もそう思って聞いたんです。そうしたら、君は気になるの? なんでそう思うの? と言われて。その時に気づきました。日本は大学を卒業して、就職してっていう一定のルートがありますよね。そのルートから外れると、落ちこぼれみたいな。だから、他人と比較してしまうんだけど、そもそもデンマークはそういう年齢で輪切りにされる競争が存在しないから、スタート地点からバラバラなのにどうやって比較するの? って。日本の常識に染まっている自分がショックでしたね」
フォルケホイスコーレに来る学生は、目的も背景もバラバラで、それぞれのペースで学校や共同生活を楽しんでいた。性別や世代、国籍を問わず、バラバラなのにゆるくつながっているようなその学校の在り方は、ふたりを強く引き付けた。
「デンマーク人だからっていうわけでじゃなくて、人としてこういう時間が必要だよね!」