ふたりは改めて新田さんに連絡し、「東川町でやりたいと思っているので、町長に話をさせてください」とお願いした。それから何人かのところに挨拶に行き、気持ちを伝えていった。そして2020年2月、松岡市郎町長にプレゼンをする機会を得た。当日までに念入りに準備をしてプレゼンを始めたら、5分ほどで町長が一言。
「いいんじゃない? やってみたら?」
すでに仕事を辞め、背水の陣の気持ちでプレゼンしたふたりが拍子抜けするほどの決断の早さ。しかも町長は「大変だったら、こういう方法も使えるよ」と助言までくれたそう。こうしてふたりは町長から太鼓判を得て、その2カ月後には起業した。社名は、人生というあてのない旅の道しるべとなる「コンパス」にした。
起業した時期から新型コロナウイルスのパンデミックが始まり、順風満帆の船出、とはいかなかった。しかし、旧東川小学校の校舎を改装した町営日本語学校の宿舎を借りるなど町からの手厚いサポートを得て、昨年、コロナ禍が瞬間的に落ち着いた9月のシルバーウイークに合わせて6泊7日のプログラムを開催した。
初回のテーマは「森100年、人100年」。町の自然にひたり、農家、家具職人、写真家などなど町のものづくり、食づくりに携わる人たちと交流し、木工細工をしたり、ゲストのクリエイティブユニットと「あそびの時間」を過ごすなど、東川町の豊かさをフルに活用するプログラムにした。
シルバーウイークに重ねたとはいえ、日本で6泊7日の日程を確保できる社会人はそれほど多くない。「誰も来ないかな」と不安に思っていたそうだが、10人の定員いっぱいに。さらに、「6泊7日はさすがに難しい」という声に応えて、昨年11月には平日は東川町でワーケーションをしつつ、宿舎で一緒に過ごしながら、週末は人生の学校の学びを体験する「週末フォルケ」を開催した。
この2回で約30人が参加し、日本人が参加しやすいようにアレンジすることの難しさを実感しつつも、「やっぱりニーズはある!」と手ごたえを得ているという。
「参加してくれると、この『余白』って大事だよねってなるんですけど、参加してもらうまでのハードルがめちゃめちゃ高い(笑)。日本人ってやっぱり休むことに対する罪悪感とか、休むと置いてかれるとか、何かに所属しないことに対する恐怖心が大きいじゃないですか。7日間のプログラムは『めっちゃ行きたいけど休めない』という声もあったんです。それで週末フォルケを企画したら、参加しやすいって好評で。やっぱり、いきなりデンマークのものを持ってくるのは難しいので、どうやって自分たちで編集して日本に合う形でやってくのかを試行錯誤してます」(安井さん)