いよいよ鞍掛山を登り始める。山に入るとすぐに、咲き誇る桜の木々が現れた。
ふつう桜というと、ソメイヨシノなどを思い出すだろう。それらはまず先に花が一斉に咲き、散った後、緑色の葉がわっと出る。それが日本の桜の一般的なイメージだ。 だが日立の山中に圧倒的に多い「オオシマザクラ」は、緑色の葉とともに花が一緒に咲くのだ、と田上さんは教えてくれた。ちなみに一般的に山の中でよく見られる「山桜」は葉が赤いので、樹木全体が華やかに見えるのだという。
「緑の葉と花が一緒に咲くから、オオシマザクラは少し地味に見えてしまうんですけどね」と田上さんは言ったが、なかなかどうして、うすいピンクと緑が混じった桜はとても美しく見えるではないか。桜が連なる春の山のなかには明るい光が差し込んで、歩くだけでもウキウキするのだった。
「今日はお花見登山ですね!」と浮かれたわたしがいうと、みんな、そうですねえ、と頷いて笑っていた。
鞍掛山(標高247.2メートル)は小さな山なので、さほど苦労なく山頂に着いた。だがまだ1つ目の頂である。今日はあと二つも登るのだ。4月上旬とは思えない暖かさに汗が噴き出し、みんな上着を一枚脱いで、山頂で一休みすることにした。水を飲んで、お互い持ってきたチョコレートなどを交換して、糖分も補給した。
私たちでいっぱいになってしまった小さな小さな山頂はとてものどかで、遠くには春の海と日立の街、そして桜が見えたのだった。