未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
184

大煙突は知っている。 絶景のオオシマザクラと天気相談所の秘密

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.184 |26 April 2021
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#2いざ「日立アルプス」縦走へ

日立のオオシマザクラ

田上さんは「ジオネット日立」のメンバーだ。さてジオネット日立とは何か?  その前にまず茨城県には『茨城県北ジオパーク構想』というものがある。ちなみに「ジオパーク」とは「地球・大地」(ジオ)と「公園(パーク)」を組み合わせた言葉で、「大地の公園」という意味だ。その土地の地層や岩石、火山、断層といった自然や歴史・文化を学び、楽しむことのできる場所をさす「ジオパーク」は国内だけでなく、世界各地にある。茨城県北ジオパーク構想では、この「ジオパーク」認定を目指している。

そしてジオネットは茨城県北の各ジオサイトエリアにあるインタープリター(大地の案内人という意味)のネットワーク組織のことであり、つまりジオネット日立は「日立ジオサイト」を中心に活動している団体なのだ。

以前に私はこの連載で日立にある日本最古のカンブリア紀の地層を取材したことがある。それ以来、すっかり「地質学」という学問のおもしろさに心を奪われてしまった私は、このカンブリア紀の地層を調査している「ジオネット日立」に入って、地質学者や地元の人たちと一緒に、地質の勉強や調査の活動をするようになった。中でも副代表である田上さんは、いつも地質や自然、山のことを教えてくれる、私の「ジオネット先輩」なのだ。

ジオネット日立の田上正敏さん。

田上さんが送ってくれた写真の桜は「オオシマザクラ」と言って、日立の山のなかに群生しているのだという。写真は日立市にある神峰山から撮ったものらしい。日立市の西側には多賀山地(茨城・福島・栃木にまたがる阿武隈山地のこと。茨城県内の部分について、別名で「多賀山地」とも言う)が広がっていて、その山々を街の人たちは親しみを込めて「日立アルプス」と呼ぶ。

さっそく田上さんが、今回はジオネット日立のみんなを誘って、オオシマザクラを見ながら長いコースを歩いてみましょうか、という。聞けば「日立アルプス」の3つの山、鞍掛山、羽黒山、神峰山を半日かけて縦走する、全長12キロのコースだ。むむ……、普段運動不足の私にはなかなか厳しいコースだな……と思ったけれど、写真にあった絶景を見るためなら、しかたない。

さて登山当日。晴れた。いつものジオネットの仲間たちが集合場所の「日立市かみね公園」に集まった。
実は私たちジオネット日立のグループが市内の山を登る時は、必ずといっていいほど、ある程度天気がいい。なぜかというと登山予定日についていくつか候補を立て、その直前に、とある気象情報サイトを見て判断するからだ。日立市内の天気であれば、そのサイトが出している予報はたいてい外れることはない。

それは「日立市天気相談所」の公式サイトだ。驚くことに日立市役所には昭和27年から「天気相談所」という気象観測専門の部署があるのだ。そこには天気予報士の資格を持つ市職員が在籍し、毎日欠かさず市内各所で気象観測を行い、公式サイトで市独自の天気予報を平日は2回、土日は1回、毎日欠かさず公表している。日立市民にとっては当たり前の存在なのだが、実はこのような気象観測の部署がある自治体は、全国でも、ここ日立市にしかないという。これらは全て私がジオネット日立に入ってから知ったことだった。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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