茨城県日立市
アメリカの著名な写真家ユージン・スミスが、1961年から翌年にかけて、日立市を撮影したことはあまり知られていない。そして日立市には、スミスが日立で制作した2年間を長年、調査・研究してきた博物館学芸員がいる。偉大な写真家の足跡と、それを20年間ひたすら追い続けてきた、一人の学芸員の物語。
最寄りのICから【E6】常磐自動車道「日立中央IC」を下車
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『Japan ... a chapter of image』
「日本 イメージの一章」という意味のタイトルがついた、一冊の古い写真集の存在をご存知だろうか?
この写真集を撮影したのはアメリカの報道写真家、ユージン・スミス(1918-1978)。世界的な写真家集団「マグナム」の正会員であり、日本を多く撮影したスミスのことは、昨年その伝記がハリウッド映画にもなったから、ご存知の方も多いだろう。初期のキャリアでは太平洋戦争の従軍記者として撮影した沖縄戦などが知られ、そして代表作は1970年代における水俣病を告発したルポ写真だ。
『Japan ... a chapter of image』は沖縄を撮影した約15年後、そして水俣を撮影する約10年前につくられたものだ。そして20世紀を代表するこの写真家の、初めての写真集でもある。そして奥付には「sponsored by Hitachi Ltd.」、印刷会社は日本の大手印刷会社名も記載されている。つまり正真正銘、日本で作られたものだ。
1963年に国内で出版されたにもかかわらず、この写真集は部数が極めて少なく、日本国内ではほとんど出回っていない。そして現在、わたしたちがこの本を閲覧できる文化施設も限られた場所のみ。
この写真集は、タイトルのとおり、1960年初頭の高度経済成長期の日本のようすを真摯な眼差しで捉えた写真集だ。
そして「日本 イメージの一章」と題されてはいるけれど、実はこの写真集の主な撮影地は、茨城県日立市なのだ。そして版元は「sponsored by Hitachi Ltd.」つまり日立製作所。世界的写真家、ユージン・スミスの初めての写真集がなぜ、日本をテーマに、日立で作られたのか。
そのことをおそらく一番よく知っている、一人の学芸員に会いに行った。