未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
183

写真家ユージン・スミスが日立にいた2年間と、その道のりを探った20年

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子、山野井咲里(#6のみ)
未知の細道 No.183 |12 April 2021
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#5調査の苦労

ところで日立市内にはスミスが撮影した元々の写真、つまり「オリジナルプリント」は、一枚も残っていない。あるのは複製されたパネルばかりだ。『Japan ... a chapter of image』の印刷原稿にもなったオリジナルプリントは、1990年に日立製作所からすべて、東京都写真美術館へ寄贈されている。2010年に行われた写真展が、東京都写真美術館から借用されたもので行われたのも、大森さんの主な調査がアシスタントたちから借りた「工房写真」をもとに行われたのも、そういうわけだ。

何バーションか作られているというスミスのオリジナルプリントは、スミスが日立を去ってから現在に至るまで、残念ながら日立市内には存在していない。

美術品に途方もないお金がかけられたバブル時代から、世の中は文化や研究にお金をかけない時代へと移っていき、久しい。撮影地である日立市に、たった一枚でもユージン・スミスのオリジナルプリントがあったら、それは町の文化財として大きな大きな宝物になるのに、と残念に思うが、致し方ない。

ならば複製芸術である写真集『Japan ... a chapter of image』と『Hitachi Reminder』はどうかというと、これら写真集も、市内の図書館、博物館が所蔵していない状況である。もしかしたら市内の個人宅など、どこかには眠っているのかもしれないが、長い間探しても見つからなかった、と大森さんはいう。

全編のほとんどを、日立市内で撮影した写真集である。この本が図書館や博物館にあったならば、市民の財産にもなるし、研究ももっと進むかもしれない。

調査を続け、写真展開催を実現した大森さんは、せめてこれらの写真集だけでも収蔵したいと長い間考えていたが、国内でほとんど出回らず、古書店で数十万円は下らないと言われている写真集を収蔵するチャンスは、なかなか巡ってこなかった。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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