未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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写真家ユージン・スミスが日立にいた2年間と、その道のりを探った20年

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子、山野井咲里(#6のみ)
未知の細道 No.183 |12 April 2021
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#6「地域資料」としてのスミス芸術

大森さんをゲストに行ったワークショップと座談会『茨城県北サーチ ユージン・スミスが撮った日立を眺める』。

さて私は茨城在住の写真家でありながら、スミスが日立で撮影していたことも、大森さんがその研究をしていたことも、恥ずかしながら、少し前まで知らなかった。大森さんの研究に驚き、これをもっと他の人にも知ってほしい!と思った私は、最近、大森さんをゲストにワークショップと座談会を行った。

ワークショップの内容としては、大きく二つに分けた。一つはスミスの写真芸術について、参加者と共に深く考えてみること。まず大森さんの研究とスミスの写真について、スライドなどを見ながらトークしてもらった。そして、実際にスミスが撮影したとほぼ特定できる場所から、日立の風景を参加者と共に眺めることで、スミスの写真の本質について考えた。

二つ目は、スミスの写真を芸術として考えるとともに、日立の「地域資料」「郷土資料」としても捉え直してみよう、という新しい試みだ。

スミスの写真を日立の「地域資料」として考えた場合、オリジナルプリントや写真集が、もし今の日立にあったら、それを地域資料としてどのように活用できるか、ということを参加者と話しあったのだった。

参加者の中には、「スミスのような写真家の貴重な資料があれば地域活性の起爆剤にもなりうるから、ぜひ各方面に働きかけてみてはどうか?」という考えの人もいれば、「価値のある報道写真だからこそ、単純に文化財=地域活性というふうに短絡的に扱ってほしくない」という意見の人もいて、話は盛り上がった。結果的に、美術品とは何か、そして地域資料とは何かということを、大森さんと市民とで改めて考え直す、とても良い時間となったのであった。

スミスが撮影したと思われる地点から、日立の風景を眺めてみる。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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