未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
182

神奈川県茅ヶ崎市

書けない……。アイディアが浮かばない……。原稿や仕事に行き詰まったときの打開策に「カンヅメ」はいかがしょう? 多くの映画監督やシナリオライターが名作を生み出してきた「茅ヶ崎館」にこもり、原稿を書いてみた。2泊3日のルポルタージュ。

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.182 |25 March 2021
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
神奈川県茅ヶ崎市

最寄りのICから【E84】新湘南バイパス「茅ヶ崎海岸IC」を下車

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#1あの名作が生まれる「物書き宿」

わたしは行き詰まっていた。
なにって、もちろん原稿である。
今、一冊の本を書いていて、2年ほど書き溜めてきた原稿は、いよいよ最終章まできていた。

ただ、ここにきて本の終わらせ方がまったくわからない。まとめて終わるのか、広がって終わるのか、疑問を残して終わるのか。なんだかどれもピンとこない。頭の中は霞がかかったようにモワっとしている。
編集者は原稿を待っている。なにしろ半年くらい前から待っているんだから、今日も待っていないわけがなかった。

焦っているのならまだマシなのだが、焦ってすらいなかった。あああああと伸びをしたり、近所の公園を走ったり、海外ドラマを見て寝不足になったりしている。

本を一冊書き切るのは、それなりに大変である。いや、“それなり”じゃないか。本当のことをいえば、すごく大変で、例えるならば毎回トライアスロンに初出場するような感じだ(出場したことないけど)。しかも、最終章となると、とんでもない集中力を必要する。夕飯の献立を考えたり、娘と一緒に『鬼滅の刃』のアニメを見たりしながらは、できない。

しかし、わたしには切り札があった。
「カンヅメ」だ。

茅ヶ崎館のサロンには、映画関係の本やポスターがたくさん置かれている。

以前、原稿執筆に完全に行き詰まったとき、追い詰められたわたしはとある旅館にこもった。日常ときっぱり手を切ったのがよかったのだろう、驚いたことに、ほぼ一晩で予定していた原稿を書き切ることができた。文字通りミラクルである。
もうあの手でいくしかない。

今回はどこに行こうかと悩んだのだが、以前の成功体験をなぞるかのように、前回と同じ「茅ヶ崎館」に決めた。明治時代から続く由緒ある旅館で、部屋にはものを書くのにうってつけの座卓があり、茅ヶ崎海岸のそばなので気分転換に散歩もできる。幸いにも近所に飲みに誘えるような知り合いもいない(これは大事な点だ)。

とくに素晴らしい点は「物書き宿」としての歴史があることだ。
昭和の映画監督の小津安二郎監督は、ここに宿泊しながら映画のシナリオを完成させた。最近では是枝裕和監督などもここで新作の構想を練り、カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドール賞を受賞した『万引き家族』もここでシナリオが書かれたという。

よおおおし!! いざ!

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。