未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
182

カンヅメは奇跡を生むのか? 小津安二郎のゆかりの「茅ヶ崎館」で書いてみた

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.182 |25 March 2021
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#2富士山が見えるころには

予約のためにメールを送ると、女将さんから電話があり「何番のお部屋がいいですか」と聞かれる。「原稿を書くのに向いている部屋がいいです」と伝えると、「小津監督も使っていらっしゃった二番のお部屋にしましょう」と言ってくださる。
はい、ぜひ! そのお部屋でお願いします。

カバンにPCや書きかけの原稿のコピー、資料を詰め込んだ。新宿駅の湘南新宿ラインホームに着くと、5分ほど悩んだすえに、一念発起してグリーン券を買った。身に余る贅沢だがすべては原稿のためだ。

多くの作家が、散歩をしたり、電車に乗っているときに、新しいアイディアが閃くとエッセイに書いている。日常から離れ、乗り物に揺られることで、脳の回路が活性化するのだろう。しかし、せっかくアイディアが閃いても、荷物やつり革で手が塞がっていればメモもできないし、ひらめきは瞬時に消えてしまう。そこで、座席とテーブルが確保できるグリーン車が登場! というわけ。

この狙いは、恐ろしいほどに功を奏した。最初は、コーヒーを飲んだり、ぼおっと車窓を眺めていたのだが、急に思考が浮遊していき、小高い丘から街を俯瞰したかのように視界がクリアになった。やがて、まったく思いがけない原稿の構成がバババっと頭に浮かんだ。

きた! ひらめいた!

急いでアイディアをパソコンでメモする。そして車窓に富士山が見え、茅ヶ崎駅に着くころ、原稿の書き出しが決まった。予想を超えたスタートダッシュである。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
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