神奈川県茅ヶ崎市
書けない……。アイディアが浮かばない……。原稿や仕事に行き詰まったときの打開策に「カンヅメ」はいかがしょう? 多くの映画監督やシナリオライターが名作を生み出してきた「茅ヶ崎館」にこもり、原稿を書いてみた。2泊3日のルポルタージュ。
最寄りのICから【E84】新湘南バイパス「茅ヶ崎海岸IC」を下車
最寄りのICから【E84】新湘南バイパス「茅ヶ崎海岸IC」を下車
わたしは行き詰まっていた。
なにって、もちろん原稿である。
今、一冊の本を書いていて、2年ほど書き溜めてきた原稿は、いよいよ最終章まできていた。
ただ、ここにきて本の終わらせ方がまったくわからない。まとめて終わるのか、広がって終わるのか、疑問を残して終わるのか。なんだかどれもピンとこない。頭の中は霞がかかったようにモワっとしている。
編集者は原稿を待っている。なにしろ半年くらい前から待っているんだから、今日も待っていないわけがなかった。
焦っているのならまだマシなのだが、焦ってすらいなかった。あああああと伸びをしたり、近所の公園を走ったり、海外ドラマを見て寝不足になったりしている。
本を一冊書き切るのは、それなりに大変である。いや、“それなり”じゃないか。本当のことをいえば、すごく大変で、例えるならば毎回トライアスロンに初出場するような感じだ(出場したことないけど)。しかも、最終章となると、とんでもない集中力を必要する。夕飯の献立を考えたり、娘と一緒に『鬼滅の刃』のアニメを見たりしながらは、できない。
しかし、わたしには切り札があった。
「カンヅメ」だ。
以前、原稿執筆に完全に行き詰まったとき、追い詰められたわたしはとある旅館にこもった。日常ときっぱり手を切ったのがよかったのだろう、驚いたことに、ほぼ一晩で予定していた原稿を書き切ることができた。文字通りミラクルである。
もうあの手でいくしかない。
今回はどこに行こうかと悩んだのだが、以前の成功体験をなぞるかのように、前回と同じ「茅ヶ崎館」に決めた。明治時代から続く由緒ある旅館で、部屋にはものを書くのにうってつけの座卓があり、茅ヶ崎海岸のそばなので気分転換に散歩もできる。幸いにも近所に飲みに誘えるような知り合いもいない(これは大事な点だ)。
とくに素晴らしい点は「物書き宿」としての歴史があることだ。
昭和の映画監督の小津安二郎監督は、ここに宿泊しながら映画のシナリオを完成させた。最近では是枝裕和監督などもここで新作の構想を練り、カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドール賞を受賞した『万引き家族』もここでシナリオが書かれたという。
よおおおし!! いざ!