神奈川県山北町
今年6月、神奈川県山北町にある大野山の頂に牧場がオープンした。
そこで若干29歳の女の子が5頭の牛とともに「山地酪農」を始めた。
山と人間と牛をつなぐ、サステイナブルな営みの物語。
最寄りのICから【E1】東名高速道路「大井松田IC」を下車
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おお、すんごくやさしい。
神奈川県山北町にある「やまきたさくらカフェ」でソフトクリームを一口食べて、真っ先に思い浮かんだ言葉がこれだった。ソフトクリームといえばねっとりとした濃厚な甘みというイメージがあった。だから、口のなかに爽やかなミルクの味が広がったあと、雪のようにフワッと溶けてゆく感覚に驚くとともに、繊細さと優しさを感じた。
2年前、民家を改装してこのカフェをオープンした山田肇さんによると、このソフトクリームは看板商品のひとつだという。
「山北町で一番景色の良い場所で、山の草だけを食べてのんびり暮らしている牛のお乳に甜菜糖と脱脂粉乳を混ぜただけのミルクを使っていますからね。安定剤や乳化剤、植物油脂といった合成添加物を一切加えていないので、素朴なミルクの味がするんです。今年7月から出し始めたんですが、すこぶる評判が良くて1日に3回食べに来た方とか、毎週必ず食べに来てくれる方もいるんですよ」
人気になるのもわかる。軽やかなミルクの風味と余計なものが一切入っていないという安心感もあって、大人も子どもも食べたくなるのだろう。決して人通りの多くない、山北駅の線路沿いにある静かな雰囲気のカフェで、8月にはなんと500個も売れたそうだ。
この絶品ソフトクリームのもとになるミルクを作っているのが、今年6月、山北町にある大野山の山頂に「薫る野牧場」をオープンした島崎薫さん。若干29歳にして、ひとりで5頭の牛とともに酪農を営んでいる。
「薫ちゃんを応援したいという気持ちもあって、ソフトクリームを始めたんです。地元で薫る野牧場のミルクを使ったソフトクリームを出しているのはまだうちのカフェだけだから、同じような思いでうちにきてくれるお客さんもいますよ」と山田さん。
牛が地元の山の草を食べる。その牛の乳を原料にしてソフトクリームを作る。地元の人がそれを販売する。ソフトクリームが人気となり、地域が潤う。このサステイナブルな仕組みの中心人物、島崎さんってどんな女性なのだろう? 山北町で一番景色が良い場所ってどんなところだろう? やまきたさくらカフェでソフトクリームを堪能した僕は、ワクワクしながら大野山に向かった。
川内イオ