未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
125

神奈川県山北町

今年6月、神奈川県山北町にある大野山の頂に牧場がオープンした。
そこで若干29歳の女の子が5頭の牛とともに「山地酪農」を始めた。
山と人間と牛をつなぐ、サステイナブルな営みの物語。

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.125 |9 November 2018
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
神奈川県山北町

最寄りのICから【E1】東名高速道路「大井松田IC」を下車

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#1サステイナブルなソフトクリーム

 おお、すんごくやさしい。
 神奈川県山北町にある「やまきたさくらカフェ」でソフトクリームを一口食べて、真っ先に思い浮かんだ言葉がこれだった。ソフトクリームといえばねっとりとした濃厚な甘みというイメージがあった。だから、口のなかに爽やかなミルクの味が広がったあと、雪のようにフワッと溶けてゆく感覚に驚くとともに、繊細さと優しさを感じた。

 2年前、民家を改装してこのカフェをオープンした山田肇さんによると、このソフトクリームは看板商品のひとつだという。

 「山北町で一番景色の良い場所で、山の草だけを食べてのんびり暮らしている牛のお乳に甜菜糖と脱脂粉乳を混ぜただけのミルクを使っていますからね。安定剤や乳化剤、植物油脂といった合成添加物を一切加えていないので、素朴なミルクの味がするんです。今年7月から出し始めたんですが、すこぶる評判が良くて1日に3回食べに来た方とか、毎週必ず食べに来てくれる方もいるんですよ」

 人気になるのもわかる。軽やかなミルクの風味と余計なものが一切入っていないという安心感もあって、大人も子どもも食べたくなるのだろう。決して人通りの多くない、山北駅の線路沿いにある静かな雰囲気のカフェで、8月にはなんと500個も売れたそうだ。

 この絶品ソフトクリームのもとになるミルクを作っているのが、今年6月、山北町にある大野山の山頂に「薫る野牧場」をオープンした島崎薫さん。若干29歳にして、ひとりで5頭の牛とともに酪農を営んでいる。

 「薫ちゃんを応援したいという気持ちもあって、ソフトクリームを始めたんです。地元で薫る野牧場のミルクを使ったソフトクリームを出しているのはまだうちのカフェだけだから、同じような思いでうちにきてくれるお客さんもいますよ」と山田さん。

 牛が地元の山の草を食べる。その牛の乳を原料にしてソフトクリームを作る。地元の人がそれを販売する。ソフトクリームが人気となり、地域が潤う。このサステイナブルな仕組みの中心人物、島崎さんってどんな女性なのだろう? 山北町で一番景色が良い場所ってどんなところだろう? やまきたさくらカフェでソフトクリームを堪能した僕は、ワクワクしながら大野山に向かった。

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未知の細道 No.125

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。