最近の雛人形産業では、現代的な顔立ちに少し微笑みを浮かべているようなものが人気なのだそうだ。
でも小佐畑さんは「雛人形には本当は表情がないほうがいいのです」と教えてくれる。—人形は人の心を映し出す鏡である。人が嬉しい時は嬉しいように、人が寂しい時は寂しいように、いつも一緒にいてくれる、どんな気持ちにも合わせてくれる、そういう人形こそがいちばいいのだ、と。
小佐畑人形店にいるお雛様たちは、たしかにみんなそんなお顔をしている。今日の私とくみちゃんは、美しいお雛様にたくさん出会えたことでちょっと高揚している。私たちのそんな華やいだ気持ちをゆったりと受け止めてくれるように、お雛様は佇んでいるように見えた。このお雛様たちは、こうして春までに、持ち主になってくれる人たち、あるいはその親が、自分たちを迎えに来てくれるのを静かに待っているのだろう。
そして小佐畑さんは、こんな話もしてくれた。「赤い色は、赤ちゃんが初めて認識する色なのだそうです。赤ちゃん、という言葉はそこから出ていると言う説もあるそうですよ」だから雛人形に使う赤には、とりわけ気をつかっているのだ、小佐畑さんは続けていう。
女の子が生まれてきて、その瞳に初めて映る美術品、それはもしかしたらお雛様なのかもしれない。それがずっといつまでも続くように、ただひたすら、本物の良い素材と技術を使って、雛人形をつくっていきたい、と小佐畑さんは考えている。
松本美枝子