未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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今も昔も女の子をときめかせる

美しき雛人形「桂雛」の世界

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.122 |25 September 2018
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#3人形作家になる

現在は主流になっている、男雛と女雛だけの雛人形。「親王飾り」とよばれる。男雛と女雛を斜めに向かい合わせて飾ることも増えた。

「桂雛」を始めた祖父と、その後を継いで人形師として働いていた母親の姿を見て育った小佐畑さん。「私は次男だったので、人形店を継ぐつもりは全くなかったんですよ。都内の大学に進学して、工学部で電気工学の勉強をしていました」

 25年ほど前、家業とは離れ、東京で学生生活を送っていた小佐畑さんに、ある日、桂村の母親から連絡が入った。雛人形の見本市のために上京するから、そのついでに一緒にご飯を食べよう、という連絡だった。
 何の気無しに出かけて行った、という小佐畑さんは、見本市を見ているうちに「ある雛人形の前で立ち止まってしまった」という。有名な女流人形作家によるその作品は、男雛と女雛が斜めに向きあっただけの、当時としてはとても珍しいスタイルだった。その頃は豪華な段飾りが主流であり、男雛と女雛は正面を向くのが当たり前だった。そしてなんといっても、着物の色使いが斬新だった。

「自分もこんな雛人形を作ってみたい」
 そう思った小佐畑さんは早速、祖父と母に気持ちを打ち明けた。びっくりしたのは店を継いでいた母である。「人形師になるなんて、とんでもない」と強く反対された。祖父は「どうしてもやってみたいと言うのなら、人形といってもさまざまな種類があるから、まずはいろんなものを見てみたら」という。その夏休み、桂村に帰った小佐畑さんは、さまざまな人形を見たり、祖父が作った雛人形を解体したり、自分なりに雛人形の歴史を調べたりするうちに、自分がやりたいのはやはり雛人形作りだ、と悟った。
 人形師になるなら、できるだけ早いほうがいい。こう決意した小佐畑さんは母を説得して、すぐに大学を中退し、静岡の「駿河雛」の親方に弟子入りしたのであった。

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未知の細道 No.122

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。