さて「桂雛」を美しいと感じたのは、日本人だけには留まらなかった。
4年前のこと、小佐畑さんの人形作りは「コンシェルジュ型パターンメイドによる別誂え雛人形の開発及びブランド化による地域活性化事業」としての経済産業省の認定を取得し、国の補助事業として取り上げられるようになった。
その一環として、大きな見本市に参加したときのことである。国内外の関係者が見にくるその見本市には、ベルギー大使館の観光局日本支局長も来ていた。小佐畑さんの雛人形の美しさに注目した支局長は、なんと、近いうちに城里町の小佐畑人形店まで見に行く、と約束してくれたのだった。
せっかくだから、ベルギーの人たちを喜ばせるようなお雛様をひとつ作ってみたい――そんなことを考えた小佐畑さんは、あることを思いついた。ベルギーの服飾ブランドの生地を使って、お雛様をつくろう!
ベルギーといえば、ヨーロッパの中でも有名なファッション大国の一つである。そんなベルギーのブランドの中でも、とりわけ人気があるのが「ドリス・ヴァン・ノッテン」だ。
小佐畑さんが高校生の頃は、男の子も女の子も、学生たちが何万円もするDCブランドや海外ブランドを買うためにお金を貯めて、デパートのバーゲンに並ぶ……、そんな時代だった。実は小佐畑さんも、高校生の頃、アルバイトしたお金を貯めて、ドリス・ヴァン・ノッテンのニットを買っていた。大事にしまってあったそのニットを使って、雛人形を作ったのである。
お雛様はもともと、宮中の殿上人たちの美しい装束を模してまとわせている。つまりはるか昔から、日本の女の子たちの憧れのファッションを具現化したものだともいえる。果たして桂村までやってきたファッションの国、ベルギー大使館の観光局日本支局長は、小佐畑さんのアイディアと美しさを、とても気に入ってくれた。
その後、桂雛はベルキー大使館の推奨を受けることとなり、小佐畑さんはベルギーにリサーチに行かせてもらうチャンスを得た。そして「結城紬」の産地である茨城県結城市と姉妹都市になっているメッヘレンという町に滞在し、そこで結城紬とベルギーの文化をコラボレーションした着物をまとった雛人形を制作した。今でもベルギー大使館を訪れる人たちは、一年を通して、その雛人形をみることができる。
「織物は世界中どこにいってもあるものですよね。だからいろんな国の文化を知って、その良さを取り入れていきたいんです。もともと古来の日本の織物の文様も、シルクロードを通って、様々な地域のエッセンスを取り入れて出来上がったものなのですから」と小佐畑さんは語ってくれた。
松本美枝子