未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
122

今も昔も女の子をときめかせる

美しき雛人形「桂雛」の世界

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.122 |25 September 2018
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#6ファッションの国と、お雛様との出会い

ドリス・ヴァン・ノッテンのストールとコラボレーションした雛人形。

さて「桂雛」を美しいと感じたのは、日本人だけには留まらなかった。
 4年前のこと、小佐畑さんの人形作りは「コンシェルジュ型パターンメイドによる別誂え雛人形の開発及びブランド化による地域活性化事業」としての経済産業省の認定を取得し、国の補助事業として取り上げられるようになった。
 その一環として、大きな見本市に参加したときのことである。国内外の関係者が見にくるその見本市には、ベルギー大使館の観光局日本支局長も来ていた。小佐畑さんの雛人形の美しさに注目した支局長は、なんと、近いうちに城里町の小佐畑人形店まで見に行く、と約束してくれたのだった。

 せっかくだから、ベルギーの人たちを喜ばせるようなお雛様をひとつ作ってみたい――そんなことを考えた小佐畑さんは、あることを思いついた。ベルギーの服飾ブランドの生地を使って、お雛様をつくろう!
 ベルギーといえば、ヨーロッパの中でも有名なファッション大国の一つである。そんなベルギーのブランドの中でも、とりわけ人気があるのが「ドリス・ヴァン・ノッテン」だ。
 小佐畑さんが高校生の頃は、男の子も女の子も、学生たちが何万円もするDCブランドや海外ブランドを買うためにお金を貯めて、デパートのバーゲンに並ぶ……、そんな時代だった。実は小佐畑さんも、高校生の頃、アルバイトしたお金を貯めて、ドリス・ヴァン・ノッテンのニットを買っていた。大事にしまってあったそのニットを使って、雛人形を作ったのである。

 お雛様はもともと、宮中の殿上人たちの美しい装束を模してまとわせている。つまりはるか昔から、日本の女の子たちの憧れのファッションを具現化したものだともいえる。果たして桂村までやってきたファッションの国、ベルギー大使館の観光局日本支局長は、小佐畑さんのアイディアと美しさを、とても気に入ってくれた。
 その後、桂雛はベルキー大使館の推奨を受けることとなり、小佐畑さんはベルギーにリサーチに行かせてもらうチャンスを得た。そして「結城紬」の産地である茨城県結城市と姉妹都市になっているメッヘレンという町に滞在し、そこで結城紬とベルギーの文化をコラボレーションした着物をまとった雛人形を制作した。今でもベルギー大使館を訪れる人たちは、一年を通して、その雛人形をみることができる。

メッヘレンと姉妹都市・結城市の「結城紬」も、小佐畑さんの雛人形にはふんだんに採り入れられている。

「織物は世界中どこにいってもあるものですよね。だからいろんな国の文化を知って、その良さを取り入れていきたいんです。もともと古来の日本の織物の文様も、シルクロードを通って、様々な地域のエッセンスを取り入れて出来上がったものなのですから」と小佐畑さんは語ってくれた。

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未知の細道 No.122

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。