2014年(平成26年)から、小佐畑さんの新しい雛人形ブランド「TAKAO KOSAHATA」が、都内の2箇所で販売されることになった。一つは目黒にある高級イタリア家具の店。もう一つは六本木にある「東京ミッドタウン」である。
小佐畑人形店の伝統的な「桂雛」に加えて、この「TAKAO KOSAHATA」は、各地から取り寄せた生地を使い、伝統的な着物に少しモダンさを取り入れて、現代の住空間にも飾れるように、と作った雛人形ブランドなのだ。そしてこの雛人形は全て「親王飾り」と呼ばれる男雛と女雛の2体だけのシンプルなスタイルである。私たちが夏の夜に初めて見たのは、このブランドだったのだ。斬新な色づかいではあるけれど、日本古来の優雅さもきちんとある、そんな印象の雛人形である。
生地は人形用のものだけでなく、人が実際に着る立派な帯から仕立てたり、結城紬や友禅などの伝統的な産地、そしてもちろんドリス・ヴァン・ノッテンとコラボレーションして作ったものもある。この雛人形たちを見ていると、自分たちがふだん着られないような素敵な着物を、小さなお雛様が代わりに着てくれているような、そんな気持ちになってしまうのだ。
ミッドタウンに置くことになったのは、展示会で小佐畑さんの雛人形を見たバイヤーが声をかけてくれたのがきっかけだ。これらのような店舗に節句品である雛人形がインテリア商品として置かれること自体が、これまでにはなかったことである。高級雑貨や高級家具のバイヤーたちにとっても、雛人形を季節限定の節句品としてではなく、暮らしの中の調度品として取り扱ってみようという、新しいチャレンジでもあるのだ。
都内のお店で小佐畑さんの人形を買いに訪れるお客さんは、さまざまな人たちだという。節句品であれば、お客さんのうちに届けて設置まで行うこともあるが、インテリアとして買ってくれる東京のお客さんたちに、城里にいる小佐畑さんが直接会うことは少ない。だが時折、購入した芸能人などがSNSなどで紹介してくれることもあり、作った雛人形のその後の姿を目にすることもある。そして「ああ、こういうふうに飾ってくれているんだなあ」と嬉しくなる。
そのなかでも小佐畑さんが忘れられないのは、ある男性が、奥さんへの誕生日プレゼントとして雛人形を買っていった、というエピソードだ。
「雛人形は、ふつうは、生まれてきた女の子の節句のための贈り物です。でも大人の女性への誕生日プレゼント、として考えると、その男性がプレゼントを選ぶ中で、きっと他にもたくさんのライバルがあったわけですよね。雑貨やアクセサリー、あるいはお洋服などたくさんの候補のなかから、僕の雛人形を大切な奥さんへのプレゼントとして選んでくれたのが、とても嬉しかったです」と語る小佐畑さん。従来は節句のためだけのものであった雛人形産業の、さまざまな可能性を感じる話でもある。
松本美枝子