石本さんは大学時代の同級生たちと「FIVE」という和紙ブランドを立ち上げました。五箇山の5と、職人の5本の指という意味が込められています。今年で三年目を迎え、ブックカバー、カードケース、ペンケース、ポチ袋、メモロールなどが揃っていますが、まず目を引くのは、ビビッドな色。
ハードに持ち運ぶペンケースが和紙で作られていることにも驚きますが、ただでさえ丈夫な五箇山和紙に「こんにゃくのり」を揉み込むことでさらに強靭になっています。それに、触ってみるとわかるのですが、独特のシワと滑らかな触感が心地よく手に馴染みます。使っていくうちに風合いも増していくとのことで、もはや皮のような和紙です。
「FIVE=ビビッドカラーではないんやけど、和紙の印象を変えていきたいと思っとる。和紙を顔料で“染めた後に揉み込む”んやけど、なんでかわかる?」
……わかりません。でも、最後に色を塗って完成、というのが普通の工程である気はします。
「最後に色を塗って完成、にしちゃうと、商品として使ってるうちに雨に濡れて色落ちしたり、シャツに色移りしたりするかもしれないよね。でも、FIVEでは染めた後に揉み込んでる。揉むってことは『洗濯』じゃないけど、水に濡らしてくしゃくしゃにするってこと。色が落ちないように染めて、しかも、その後に揉み込んだら色落ちは限りなくしにくくなるよね。」
ジーンズのウォッシュ加工に近いかもしれません。FIVEで使われている五箇山和紙は、“染色まで丈夫”な和紙であり、あらかじめ『洗濯済み』であることが証明しているほど、水に強い和紙でもあるのでした。
FIVEの製品はパリで開かれた国際見本市にも出展され、あのロンドンのポールスミスでも販売されました。今は生産が追いついていないというほど人気です。
「色は僕が染めてるけど、揉んでるのは中島さん。ほかにも、東さんや五箇山和紙の里で働くたくさんの人の手が入っとる。職場のものというわけでもなく、地元の人が誇れるようなものになって、地域全体で五箇山和紙を守っていく。そうして発展していけるのが理想かもしれんね」
五箇山では子どもたちの「卒業証書」にも五箇山和紙が使われているそうです。地元の人に和紙に興味を持ってもらえたり、FIVEの商品を使ってもらえたりするのがいちばん嬉しいと石本さんは語ってくれました。
ライター 志賀章人(しがあきひと)