これが五箇山和紙の原料となる「楮(こうぞ)」の畑。楮はクワ科の落葉低木樹で、木を刈ればその切り株から新しい芽が毎年生えてきます。「原材料費はゼロ円」と石本さんは笑いますが、育てるにはものすごく手間がかかるそうです。
僕が訪れた5月はちょうど芽が出はじめる頃。それからは「草刈り」と「芽かき」の日々が続きます。芽かきとは、一本のまっすぐな木にするために無駄な枝を切り落とすこと。枝があると、あとで皮を剥がすときに大変だからです。
「剪定(せんてい)」も行われます。ひとつの切り株から5本前後。それより増えると質のいい木に育ちません。これらの作業は9月まで続き、定期的に畑に来ていると石本さんは話します。
「原材料から作っている和紙は珍しくてね。五箇山では畑から紙のデザインまで、すべての工程に携われる。和紙をさわるのと同じで、土にさわると落ち着くんよね」
楮の身長はぐんぐん伸びて、人より高い2m以上に育ちます。畑の様子を見に来るたびに大きくなっているので、それが楽しみでもあるそうです。
そうして11月頃になると「刈り取り」がはじまります。紙になるのは「皮」の部分だけ。皮を剥いでみると、ほら、和紙の繊維が見えています。でも、面白いのはここからです。
冬になると五箇山では「雪ざらし」をするんです。皮を剥いだあと、雪の上にひろげておくと、雪の水分と太陽の光で色素が抜けていき、雪のように白くなります。ただ白くなるだけでなく、黄ばみにくい堅密な紙になるとのことで、まるで大地がくれる魔法のような話です。
そして、いよいよ五箇山の和紙作りがはじまります。
ライター 志賀章人(しがあきひと)