未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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障子一枚の、紙一重。

日本の美意識に辿り着く秘境「五箇山和紙の里」

文= 志賀章人
写真= 志賀章人
未知の細道 No.68 |10 June 2016
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#2雪で白くなる?畑からはじまる紙作り

これが五箇山和紙の原料となる「楮(こうぞ)」の畑。楮はクワ科の落葉低木樹で、木を刈ればその切り株から新しい芽が毎年生えてきます。「原材料費はゼロ円」と石本さんは笑いますが、育てるにはものすごく手間がかかるそうです。

僕が訪れた5月はちょうど芽が出はじめる頃。それからは「草刈り」と「芽かき」の日々が続きます。芽かきとは、一本のまっすぐな木にするために無駄な枝を切り落とすこと。枝があると、あとで皮を剥がすときに大変だからです。

「剪定(せんてい)」も行われます。ひとつの切り株から5本前後。それより増えると質のいい木に育ちません。これらの作業は9月まで続き、定期的に畑に来ていると石本さんは話します。

「原材料から作っている和紙は珍しくてね。五箇山では畑から紙のデザインまで、すべての工程に携われる。和紙をさわるのと同じで、土にさわると落ち着くんよね」

楮の身長はぐんぐん伸びて、人より高い2m以上に育ちます。畑の様子を見に来るたびに大きくなっているので、それが楽しみでもあるそうです。

そうして11月頃になると「刈り取り」がはじまります。紙になるのは「皮」の部分だけ。皮を剥いでみると、ほら、和紙の繊維が見えています。でも、面白いのはここからです。

冬になると五箇山では「雪ざらし」をするんです。皮を剥いだあと、雪の上にひろげておくと、雪の水分と太陽の光で色素が抜けていき、雪のように白くなります。ただ白くなるだけでなく、黄ばみにくい堅密な紙になるとのことで、まるで大地がくれる魔法のような話です。

そして、いよいよ五箇山の和紙作りがはじまります。

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未知の細道 No.68

ライター 志賀章人(しがあきひと)

「え?」が「お!」になるのがコピーです。
コピーライターとして、核を書くことで、あなたの言葉にならない想いを言葉にします。
京都→香川→大阪→横浜で育ち、大学時代にバックパッカーとしてユーラシア大陸を横断。その後、「TRAVERINGプロジェクト」を立ち上げ、「手ぶらでインド」「スゴイ!が日常!小笠原」など旅を通して見つけたモノゴトを発信中。次なる旅は、夫婦で世界一周!シェアハウス暦8年の経験から、子育てをシェアする未来の暮らしも模索中。
伝えたいことを、伝えたいひとに、伝えられるようになる。そのために、仕事のコピーと、私事の旅を、今日も言葉にし続ける。
「新聞広告クリエーティブコンテスト」「宣伝会議賞」「販促会議賞」など受賞・ファイナリスト多数。

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