さあ、今日の「まちのみかた」も終了が近づいてきた。最後にみんなでビルの屋上に上がってコーヒーを飲もう、ということになった。
ちょっとした出先やあるいは旅先で、気軽においしいコーヒーが飲めるようにと、クロニクル・コーヒーには、なんとカップオン・コーヒーまであるのだ。「まちのみかた」の締めくくりにはぴったりだ。加藤さんが丁寧に淹れてくれた7人分のコーヒーを持って、ビルの屋上へと上がる。
このビルの屋上は古河のパノラマが一望できる最高の場所である。高層建築が少ない古河の町は、3階建のビルからでも十分見渡すことができるのだ。
大通り、昔ながらの住宅地、遠くの工場、渡良瀬川に掛かる大きな橋、そして行き交う人々。街並みとは道路と建造物だけではない。人々の生活を形づくる全ての事象が連なって街を彩り、景観ができあがっていく。そんな古河の町が夕暮れに馴染んでいくのを、おいしいコーヒーを飲みながらみんなで見ていた。「いい眺めだなあ」とか言い合いながら。それはなんとも言えない、いい時間だった。
ところで「クロニクル」とは英語で「年代記」、あるいは動詞で「記録にとどめる」という意味である。「時間に関する」というギリシャ語の語源からきている言葉だ。
「時間の流れ、というものをコーヒーで感じられるようにと思ってさ、<クロニクル・コーヒー>という屋号にしたんだよ」と加藤さんは言う。
建築とコーヒー。長い時間をかけて残っていく建築と、ひとときの楽しみであるコーヒーには、一見、共通点は全くないように思える。
だが建築物とそれを育む街に歴史があるように、一杯のコーヒーができるまでのプロセスにも長い時間がある。なにより、おいしいコーヒーを飲むためには、ゆったりとした時間と、くつろげる場所が必要なのだ。
「だから建築もコーヒーも<場をつくる>ということでは、僕にとっては同じことなんだよ」と加藤さんはまた笑って、コーヒーを飲んだ。加藤さんにとってコーヒーと建築は、人と人をつなぐ場作りの実験なのだろう、と私は思った。この楽しくておいしい実験はまだまだ続きそうだ。
松本美枝子