未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「場所」をつくる建築とコーヒー 建築家のおいしい実験

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子  一部写真提供= さいとうさだむ
未知の細道 No.52 |10 October 2015
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#5まちのみかた(前編)

さあ、ワークショップ「まちのみかた」がスタート!
お殿様が研究した雪の結晶は今や古河を代表するものの一つとして、町のあちこちにデザインとして組み込まれている。

江戸時代にタイムスリップしたような街並みを観察しながらを歩く。
小学校創立から残っているレンガの塀は、レトロ建築好きにはたまらないスポットだ。

秋晴れのシルバーウィーク。私は再び古河へとやってきた。加藤さんのワークショップ「まちのみかた」に参加するためである。今日の参加者は7名。古河商工会議所職員の関根さん夫妻、そして関根さんが住むビルの2階で探偵事務所をやっている顔出しOKの気さくな探偵、長谷川さん、通称・探偵さん(そのまま!)、それから私と友達でデザイナーのさおりちゃん、加藤さんの建築事務所の敏腕所員であり一級建築士の羽部律子さん、そして加藤さんである。

昔ながらの目抜き通りをまず歩く。古河市街を初めて歩く私とさおりちゃんは少し興奮していた。「観察する」という目的を持ってまちなかを歩きだすと、普段は目に留まらないふつうのものが、いかに輝いて見えてくることか! 建物ばかりではない。おもしろい看板や、古びた注意書き、道路にはみ出んばかりの植栽、洒落た造りのお店、用途が全くわからない道端の大きな石……、そんなものを見つけては、「あ、ここにこんなものがあるよ!」とシャッターを切っていく。見慣れた自分の町も、こんな風に歩いたら全く違って見えるのかもしれないなあ、ふと、そんなことを思いながら。
目抜き通りを抜けると、今度は古い蔵やそれをリノベーションした店舗など、趣のある建物がポツポツと目に入ってくる。きっと戦前からある建物に違いない。ちなみに私の住む水戸は残念ながら、そういった古い建築物はほとんど残っていない。太平洋戦争末期に大規模な空襲を受けているからだ。そんな話をすると加藤さんは頷いた。「そう、古河は空襲を受けてないからね。もう少し向こうに行くと旧武家屋敷の土塀も残っているよ」と教えてくれた。

古河城跡のお堀や現存する武家屋敷を使って作られた鷹見泉石記念館などが続く景観地区を抜けると、今度は美しい石畳が続く地区になる。古河は歴史の古い町で、芸術家、作家も多く輩出している。街には古い建築が今も多く残っており、歴史や文学が好きな人たちが散策する町として、密かな人気があるのだ。
さて、石畳の歩道や小学校の柵などをよく観察すると、雪の結晶のようなモチーフが使われているのに気づいた私とさおりちゃん。これは一体なんだろう?
江戸時代の古河藩は学問や芸術が盛んだった。特に藩主・土井利位が日本で初めて雪の結晶を観察、研究していたことは、現在の古河の観光資源になっていて、町の至るところに雪の結晶モチーフがデザインとして組み込まれているのであった。それを私たちに教えてくれたのは商工会議所の関根さんだ。

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未知の細道 No.52

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。