未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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地域を超えて水を繋ぐ 「流域外分水」の巨大インフラ施設に潜入!

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.273 |27 January 2025
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#6空が見える立坑

見下ろすと地下40メートルの深い穴が広がっている。

桜機場を出て、水戸の隣の茨城町にある「茨城立坑(いばらきたてこう)」までやってきた。

工事が続く巨大トンネルは、第1工区から始まる那珂川側と、第6工区のある霞ヶ浦側の両方から掘り進めている。各工区の間には立坑と呼ばれる巨大な坑が掘られ、立坑と立坑の間を、最先端技術によってトンネルが掘り進められていくのだ。残す工区は第3、第4、第5工区。茨城立坑は第1工区と第2工区の中間にある立坑だ。これらの工事現場では地下約40メートルを工事用エレベーターで降りて、今しか見られないトンネル工事を見学できるという。

立坑の上から下を見下ろすと、巨大な穴が広がっているではないか!  底には、かすかに工事現場が見える。それにしても、こんなに深い穴を見るのは、生まれて初めてかも知れない。

カタカタと音をたてながら、地下の奥底からレールに沿って小さなカゴのようなエレベーターが登ってきた。え!? これに乗るの? とギョッとした。エレベーターからは大音量で、なんとも場違いだが、かの有名な「君の瞳に恋している」のメロディが電子音でピコピコと流れている。わかる気がする。工事用の小さなエレベーターで地下40メートルまでで降るのはちょっと、いや、かなり怖い! この音楽はそれを和らげるための、つまり気安めなのではないか?!

怖すぎるエレベーター……!

地下40メートルの底へと辿り着くと、そこには驚くべき光景が広がっていた。上を見上げれば空が、そして左右を見れば、完成したばかりの真新しい巨大トンネルが通じていた。40年も続く事業だが、この先いつかはこのトンネルは完成する。そうすればここには水が流れ、二度と来られなくなる。この景色は永遠に見られなくなるのだ。今しか見られない特別な風景なのか……と思うと、不思議な気持ちだった。

ここは「空が見える立坑」として、人気の見学スポットだったが、取材時の2024年末にはほぼ工事が完了しており、残念ながら2025年からは見学ができなくなるという。しかし工事中の別の立坑は見学することができる。

この先は那珂川側だ。

実際にトンネルの内部を歩いてみた。トンネルの霞ヶ浦側には暗闇が広がっている。だがよく目をこらすと、暗闇に点が打たれたような光が一つ見えるだろう。それが数キロ先にある第3工区の上飯沼立坑から届く光なのだった。

トンネルを出て、またあの怖いエレベーターを使って地上へと上がった。地上へ戻ると、ほっとした。さあ、今日のファイナルディスティネーション、第5工区の玉里立坑へと出発だ!

暗闇の先は霞ヶ浦側だ。暗闇に点が打たれたような光が見える。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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