まずは水戸市にある那珂機場へと向かった。
那珂川のすぐそばにある那珂機場は、河岸に設置された「那珂樋管(なかひかん)」という施設から那珂川の水を取水し、霞ヶ浦へと導水する施設だ。また霞ヶ浦からの送水を那珂樋管を通じて那珂川に放流する。
遠く離れた二つの水をやり取りするのはなぜか? そこには三つの目的がある。霞ヶ浦導水工事事務所の宮下所長がくわしく説明してくれた。
まず一つ目は水質浄化。日本で二番目に大きな湖、霞ヶ浦と水戸市内を流れる桜川は、流域の都市化や産業の発展により水質が低下。長い間、水質改善に取り組んできた。霞ヶ浦導水事業が完成すれば、関東屈指の清流、那珂川と、日本三大河川の一つ、利根川から浄化用水を引くことで、霞ヶ浦と桜川双方の水質浄化が期待されているのだ。つぎに水不足の軽減。お互いの水を行き来させることで、那珂川と霞ヶ浦の水不足による被害を減らす。那珂川は春に水不足が起こりやすく、利根川は夏に水不足が起こりやすい。二つの川の水を行き来させることで、それを季節ごとに調整し、水不足を解消できるというわけだ。三つ目には首都圏の水道及び工業用水の供給の確保だ。
那珂機場には2台のモーターと主ポンプがあり、水を動かしているという。宮下所長たちに連れられて、地下に降りると普段の生活では滅多に見ることがないだろう、巨大な空間が広がっていた。モーター室である。巨大モーター2台が鎮座している!
さらにその下の階に降りると、ポンプ室があり、主ポンプが現れた。2台のポンプで併せて最大で毎秒15m3の水を送ることが可能だ。15m3というと「2トンロングトラック1台分の積載量」と言えばイメージできるだろうか。たった1秒間でそれだけの水を送水できるというのだから驚きだ。ポンプに書かれた「→」はトンネル内の水の流れを表す。今見ているポンプは、那珂川から霞ヶ浦方向に流しているという意味なのだ。
同じような機場が、水戸市の桜機場、利根川の利根機場として完成しており、現在、霞ヶ浦の高浜機場が建設中だ。那珂機場、および他の施設や工事現場も季節ごとに公開日やイベントが設定されているし、申し込みすれば見学も可能で、施設の役割などわかりやすく説明・案内してくれる。また機場ではダムカードならぬなんと「導水カード」も配布しているという!
このような大型のポンプやモーター、そして掘削中のトンネル工事を見られる場所は限られているので、インフラマニアから熱い視線が密かに寄せられるようになったというわけだ。
「特に子どもたちが見られるように、夏・冬休みの期間などを利用して積極的にイベントを行っています」と霞ヶ浦導水工事事務所の五十嵐さんはいう。
中学生や高校生へ、自分の進みたい道を考える時のひとつの材料として、またインフラ施設や建設工事など建設業界へ興味をもってもらうきっかけづくりとしても施設や工事現場の見学もしてほしいと、霞ヶ浦導水工事事務所はインフラツーリズムを推奨しているのだった。