未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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ショーケースにずらりと並ぶ自家製ハムが圧巻! 「ここだけ」のハムの味を求めて全国からファンが集まる豚のレストラン

文= ロマーノ尚美
写真= ロマーノ尚美
未知の細道 No.266 |10 October 2024
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#11山形で見つけた懐かしいイタリア

「これがない不便な時にイタリアに行けてよかった」

佐竹さんは時折スマホに手を伸ばしながら、何度も繰り返した。

「スマホは便利なんだけど、自分だけのものを手にしているという実感がない。不便だからこそ集中できる、発掘できるってあるじゃないですか。自分は6年間、イタリアの未知なる食材や料理、面白いものや自分に合うものを延々と追い求める探求心があった。探そうという気持ちが湧いてくる時代にイタリアで過ごせたのは、ラッキーだったと思っています」

Appleがタッチパネルのスマートフォン「iPhone」を発表したのが2007年。2007年より前のイタリアは、たとえ同じ場所に行ったとしても、もう味わえない。佐竹さんの口から飛び出した当時のエピソードは、2000年からイタリアで過ごしてきた私の記憶のなかの、二度と出会えない風景を呼び覚ましてくれた。

イタリアの料理本や雑誌など、佐竹さんの収集したものが溢れるテーブル
中央にあるのは、ハムやサラミを薄く切るスライサー
「パスタ作りの道具が大好き」という佐竹さんがイタリアの骨董市で集めた道具たち
「息子がガラクタを送ってきた」とお母さまが驚いたアンティークの料理道具類

「IL COTECHINO」で食事をした夜、この日の取材に同席していた娘が耳慣れた旋律を口ずさんだ。

「ママ、『ラジオイタリア』だよ!」

店内のBGMだったインターネットラジオから流れてきた音階は、イタリアでドライブのお供によくかけているラジオ局のテーマソングだった。

イタリアと山形が音で繋がっていることに、私はその時まで気がつかなかった。「IL COTECHINO」の雰囲気が、私の心を山形から1万キロメートル以上離れたイタリアに飛ばし、すっかりイタリアにいる気分になっていたのだ。しかも、いまのイタリアじゃない。20年前のイタリアに心がタイムスリップできるという、特殊効果付きだ。

おいしいハムだけじゃなく懐かしい記憶も味わえるレストランは、イタリアでもどんどん少なくなっている。

「あー、ちょっとイタリアに行きたくなってきたぞ」

昔話に花が咲いた長い取材の最後に、佐竹さんは背中を伸ばしながら呟いた。聞けばイタリアに最後に行ったのは2012年、この1年ぐらいはイタリアの本を読んでいないという。

「勉強すればするほど、新しい知識やテクニックを試したいって気持ちが出てしまうので、休んでいたんです。いまは充電期間ですね」

円熟期を迎えた「IL COTECHINO」に現在のイタリアの風が入ったら、どんな雰囲気になるんだろう。どんな味に出会えるんだろう。

まろやかに変わり続ける佐竹さんとハムを楽しみに、またここに帰って来よう。

店名の「コテキーノ」とは、イタリア中部エミリア・ロマーニャ州の代表的な生ソーセージのこと
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