うぁ、なんじゃこりゃ。どんな味がするんだ。
目の前に置かれた皿で真っ先に目がいったのは5色のモルタデッラ(ミンチ肉に脂肪の塊を混ぜたボローニャ地方発祥のハム)。
お皿に添えられた説明書きによると、風味付けに使われている食材は、黒がイカ墨と豚トロ、黄緑が岩海苔と塩レモン、黄土色が豚タン・バナナ・カルダモン、水色がラベンダー、レンガ色がアラブ風スパイスだ。
当たり前だが、イタリアでこんなハムは見たことがない。そもそも、ハムにイカ墨とか、バナナとかを入れようとは、普通思わないんじゃないか?
アラブ風を1口かじったら、舌の上でスパイスたちがダンスを始めた。噛み締め続けると、最後にひょっこり羊の味が顔を出す。味の動物園だ。
「これを入れたらどうなるんだろう」という、佐竹さんの実験の産物。地球上探しても「IL COTECHINO」でしか食べられないハムであることは間違いないだろう。
カラフルなモルタデッラに目を奪われてしまったが、非加熱系のハムたちも、1皿でイタリア周遊が楽しめる。
オーストリア国境沿いで作られる生ハムのスペック、フィレンツェ周辺で作られる大型サラミのフィノッキオーナ、アブルッツォ州伝統のサラミであるヴェントリチーナ、パルマ近郊の特産クラッタなど。説明だけではなく地図があったら更に楽しめそうだ。
首と肩を意味するカポコッロは、噛めば噛むほどに肉の味が変化して口のなかに広がり、飲み込むのがもったいないとさえ思った。
佐竹さんのこだわりはあらゆる皿の細部にまで及んでいる。
お店で提供されている野菜は、佐竹さんのお母さんが「IL COTECHINO」のためだけに寒河江市の畑で作っている。毎日届く野菜は新鮮なうちに下ごしらえして加工しなければならない。
秋葉原でのシェフ時代から既製品はほぼ使っていないという佐竹さんの料理は、パスタもデザートも100%手作りだ。
「アイテム数が半端ないから、集中して仕込みたい」という佐竹さんは、23時ごろにお客さんが帰った後、賄いを食べ、朝の7時8時頃まで仕込みをするとのこと。貴重な睡眠時間に取材をお願いしたために、真っ赤な目だったのだ。