「IL COTECHINO」は、山形県庁前から山形駅に続く目抜き通り沿いにあった。
入り口は奥まったところにあり、ぱっと見にはレストランだとわからない。真っ先に目に止まるのはイタリアの車メーカー、フィアット社の鮮やかな赤い500(チンクエチェント)。バジリコやサルビア、ローズマリーの植木鉢に囲まれた外観は、オシャレな民家のようだ。
「朝まで仕込みをやってたもんで」
やや充血した眠そうな目で迎えてくれたシェフの佐竹さん。招き入れられた店内の奥に視線が吸い寄せられた。10メートルぐらいはあるだろうか、壁一面に広がるショーケースには数えきれない肉、肉、肉。こんな光景、食肉専門店でも見たことがない。
これをぜんぶ佐竹さんが手掛けたのか。
朝まで仕込みしてたっていうけど、どんな作業なのか。
頭のなかにクエスチョンマークが増えるとともに、これから聞けるであろう話への期待が高まる。
使い込まれた木が放つ鈍い輝きを持つテーブルに座った私は、佐竹さんの人生に前のめりで耳を傾けることにした。それが自分を懐かしい「あの頃」に連れ戻してくれるとは知らず。