「リズム アンド ベタープレス」の現在は、活版印刷が3割、立ち飲みが7割くらいのペースだ。「正直、印刷の方は大変です」と、そんなに大変でもなさそうな顔で、宍戸さんは言った。
周りからは「二兎を追うものは一兎も得ず」と少々意地悪な言葉をかけられたこともあったそうだ。
「でも気にしてない、その人たちもできないことをやればいい、と思っているんですよね」と宍戸さんは続ける。
たまに立ち飲みが始まる前の時間に子どもたちが、印刷機を見たくて店に入ってくることがあるのだという。
「それはひとつの『情報』として子供の心に残る。それで勝ちかな! と思うんですよ。」
店名の「リズム アンド ベタープレス」は、大好きな黒人音楽(リズム&ブルース)とレタープレス(活版印刷)をかけた、宍戸さんの造語だ。
「良い圧、つまり、ちょうど良い、人との距離感や接し方、というような意味なんです」。
傍にはここで印刷された、この店や、近所のショップカードが所狭しとならんでいる。オレンジや緑などの華やかな特色とともに、紙に、きゅっと刻まれている凸凹。そこには、たしかに優しい、ちょうどよい「圧」が感じられる気がした。そして「この店をやるまでは、印刷会社にしか友達がいなかったけど、いまでは、いつのまにか常連さんが友達になりましたね」と宍戸さんは、静かにいうのだった。