未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
245

だれかの、じぶんの、居場所をつくる 「バー」という表現をめぐる

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.245 |10 November 2023
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#4ちょうど良い圧

「リズム アンド ベタープレス」の現在は、活版印刷が3割、立ち飲みが7割くらいのペースだ。「正直、印刷の方は大変です」と、そんなに大変でもなさそうな顔で、宍戸さんは言った。

周りからは「二兎を追うものは一兎も得ず」と少々意地悪な言葉をかけられたこともあったそうだ。
「でも気にしてない、その人たちもできないことをやればいい、と思っているんですよね」と宍戸さんは続ける。

たまに立ち飲みが始まる前の時間に子どもたちが、印刷機を見たくて店に入ってくることがあるのだという。
「それはひとつの『情報』として子供の心に残る。それで勝ちかな! と思うんですよ。」

店名の「リズム アンド ベタープレス」は、大好きな黒人音楽(リズム&ブルース)とレタープレス(活版印刷)をかけた、宍戸さんの造語だ。
「良い圧、つまり、ちょうど良い、人との距離感や接し方、というような意味なんです」。

 
味わい深い活版印刷のカード

傍にはここで印刷された、この店や、近所のショップカードが所狭しとならんでいる。オレンジや緑などの華やかな特色とともに、紙に、きゅっと刻まれている凸凹。そこには、たしかに優しい、ちょうどよい「圧」が感じられる気がした。そして「この店をやるまでは、印刷会社にしか友達がいなかったけど、いまでは、いつのまにか常連さんが友達になりましたね」と宍戸さんは、静かにいうのだった。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。