さて昼間の「リズム アンド ベタープレス」には活版印刷所として、デザイナーなど印刷のことがよくわかっている人たちがお客さんとしてやってくる。近所の仲が良い店からショップカードの印刷を依頼されることもある。
印刷所としてのこだわりは、とにかくお客さんに言われたことを、もくもくとやり抜くこと。お客さんが喜んでくれればそれでいい、と宍戸さんは言う。
そして夕方になれば、印刷所は立ち飲み屋へと変わる。デザイナーなどのお客さんたちや、印刷会社の人など同業者が来ることも多いという。
宍戸さんはもともと飲食店で長く働いていたこともあり、サワーやビールを片手に食べられる、炒め物やアジフライ、ポテトサラダなど、手頃な値段のおつまみがおいしいと評判だ。水曜日はランチタイムがあり、宍戸さんお手製のオムレツカレーなどが食べられる。
そして活版印刷機のそばには、これまたアナログなレコードプレーヤーとたくさんのレコードがあり、音楽好きの宍戸さんのセレクトで、ソウルやブルースなどの音楽が、絶えず店に流れている。
森下に店を構えたのは、たまたまいい物件があったからで、実は「この街のことをよく知らなかったし、常連さんを作る気もそれほどなかった」という宍戸さん。この街を盛り上げたいと言う気持ちで、場所作りを始めたわけではなかったのだ。
しかし、この日、店にいた4人の常連さんたちは口々にいう。ここにいる常連さんたちが、そもそもこの店にやってきたきっかけは「森下に面白い店があるよ」という知り合いからの口コミだったというのだ。
そのなかのひとり、フリーランスで動画制作の仕事をしているヨシさんは「寂しい時に来たらいつも誰かがいる。お酒も飲めるけど、ご飯もある。常連さんが仲間に入れてくれて、居心地がいいな、と思った」という。
お客さんにミュージシャンが多いのもこの店の特徴だ。「自分でもなぜだかわからないんだけど」と宍戸さんは不思議そうな顔をしていう。
実はこの界隈はミュージシャンが多く住んでいて、やがてここに集うようになり、いつのまにかライブをするようになっていた。「森下にミュージシャンが多いなんて、ほんと知らなかったですけどね」と宍戸さんはさらに続けた。
「この店に集まる人はそれぞれが興味深い、面白い人たちばかり。それは宍戸さんが作り上げている空間が、そうさせているのじゃないかな」と、もう一人の常連さんで、ここでライブをしたこともある松井さんがいうのであった。