メンバーたちは手際よく洞窟内の掃除を済ませ、私を招き入れてくれた。源泉が噴出している場所を見せてくれるのだという。熱気のこもった洞穴の中から2羽のコウモリが勢いよく飛び出してきたものだから、思わず身を仰け反らせる。気分はまさに「グーニーズ」の主人公だ。
洞窟の奥行きは30メートルほど。やや滑りやすい足元に注意しながら身を屈めて奥へと進む。洞穴の最奥の岩壁から、かなりの勢いで湯が噴出している。源泉の温度は42℃前後。加水せず加温せず入浴できる、最適な温度だ。酸化したミネラルが赤茶けた泥のようになって壁や床に付着している。狭い洞穴は湿気で満たされ、一瞬で大汗をかくほど。まさに天然のミストサウナだ。
一度外に出ると、彼らは土嚢で入り口を塞いだ。沢に流出する湯をせき止めて洞窟風呂にするためだ。入浴の支度を整えていると、沢から取水した水をコンロで沸かしていた船田さんが、紙コップとスティックコーヒーを私にくれた。たとえインスタントであっても、大自然の中でコーヒーを嗜むのは、この上ない贅沢である。この日は天候に恵まれたこともあり、まだ雪化粧をしたままの北アルプスがくっきりと見えている。広葉樹が生い茂る森の奥からカッコウの声が響き、足元にはウドや根曲がり竹といった山菜が芽を出している。これ以上ない、パーフェクトなセッティングだ。
1時間ほどして「もう入れるよ!」と声がかかった。入浴の合図を聞いたメンバーが続々と洞窟風呂に入る。「いやー、いい湯だ!」「最高!」という声が上がる。普段から登山ルートの安全点検や洞窟の清掃といった地道な活動を行い、ツアーの際にお客さんと一緒に入浴することはない根知未来会議の面々にとっても、「温泉開き」は特別な一日なのだ。