標高1487メートルの山塊は、頂上部に大きな岩壁を剥き出しにした荒々しい山容を見せている。林道を進んでいた車はやがて一旦停車し、普段は閉鎖されているゲートを開け、簡易的に舗装された道に入った。何度も急カーブを繰り返しさらに数キロメートル進むと駐車場があり、そこで全員が降車した。
「ここから登山して梶山元湯に向かいます。目的地の標高は657メートル、到着までは途中休憩を含めて1時間弱です」
そうなのだ。全国各地に点在する秘湯の中でも、ここ梶山元湯が際立ってユニークなのは、渓流沿いを歩き、登山道のない斜面をザイルを頼りに登り、伏流水の注ぐ沢を越えた先にある洞窟に湧くという、実に冒険的なプロセスを経て楽しむ野天風呂であるという点に尽きる。
そもそも梶山元湯は温泉として営業しておらず、私有地でもあるため、山主の許可なしには立ち入ることができない。根知未来会議は山の所有者の許諾を得て、6月上旬?11月上旬の土日祝のみ、1日1組に限定して秘湯へ案内するという、ロマンに溢れるツアーを2020年から開催している。幸運にも私は、普段はガイドとして秘湯マニアたちを案内するメンバーたちによる「温泉開き」に参加させてもらっているのだ。