京都で生まれ育った伊藤さんにとって、本は常にそばにあるものだった。特に高校1年生の時、バスケットボール部をやめてからひとりで過ごす時間が増えて、読書量も比例した。
「雑誌の『SWITCH』が隔月で発売された頃で、初めて見た時にアメリカの匂いがしてかっこいいと思って、自転車であちこちの書店を回ってバックナンバーを探しにいきました。ピート・ハミルやボブ・グリーンのコラム、ジム・キャロルの『マンハッタン少年日記』、ジェイ・マキナニーの『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』などを読むようになって、アメリカへの憧れを抱いていました」
世界の「匂い」を教えてくれたのが、本だった。高校卒業後、二度受験に失敗し、三度目の正直で東京の大学へ入学。アルバイトをして貯めたお金で大学1年生の夏、初めて行った海外旅行が、アメリカの東海岸、ワシントン、ボストン、ニューヨークだった。
それから海外旅行に何度か出かけた。なかでも強く印象に残っているのがインド。浪人時代、藤原新也の『東京漂流』を読んだのがきっかけで処女作にして代表作の『印度放浪』も手に取り、「いつかインドへ」という想いが芽生えた。その想いを叶えたのは、大学3年生の夏だった。
「インドに行って、なんかもっと気楽に生きるというか、もっと自分を出していい、もっと自由にやっていいんじゃないかって感じましたね。そう思えたことで、すごく気が楽になりました」