それから20年以上の時が流れ、2022年6月、脱サラした伊藤さんが開いたブックカフェ「本で旅するVia」は、JR荻窪駅から徒歩5分ほどの路地にある。大通り沿いのビルの裏にひっそりと建つ、どこにでもありそうな一軒家。こんなところに……? という非日常感から、「旅」が始まる。
不思議な雰囲気の木の扉を開けると、黒い壁に囲まれたスペースと本棚に並ぶ大量の本が目に入る。洞窟をイメージしたという黒い空間は、お客さんが静かに本を読むために存在する。ここに並ぶ本は、伊藤さんが「旅」をテーマで選書したものだ。
ユーラシア、南北アメリカ、アフリカ、オーストラリア、南極の6大陸と太平洋、大西洋、インド洋。地球を丸ごとカバーするような紀行、歴史、文化、文学など約1000冊の書籍はほとんどが店主の蔵書で、店主の目に留まった新刊も置かれている。すべて自由に読めて、購入も可能だ。
店主が「読書するための居場所」と表現する店内には木のテーブルと座り心地の良さそうなイスがあり、ひとりで集中したい人のために革張りのチェアが置かれた半個室もふたつある。
ここは「好きなだけ、気兼ねなく、居心地よく、ゆっくり」読書を楽しめるように、席料が設定されている(1時間400円~)。お客さんも店主も気持ちよく過ごすためのシステムだ。
お客さん同士のおしゃべりや、時間帯によってパソコンの使用も禁止。ほとんど物音がしない空間で、持ち込んだ本や棚に並んだ本を手に取り、店主こだわりのコーヒーやカレーを口にしながら、デスクライトをつけて読書に浸る。お気に入りの国、行ってみたいエリア、名前すら知らなかった部族。暗い洞窟のなかにいるからこそ、想像の羽が広がる。
「Via」とは、英語で「経由」の意味。そう、この場所から世界のあらゆるところに旅ができるのだ。