その場所は、湘南菱油株式会社のガソリンスタンド、セルフDr.Drive日の出町SS。待合室の一角に「エコルシェ5302(ゴーサンゼロニー)」はあった。並ぶガラス瓶には、ドライフルーツやお菓子、切り干し大根までが梱包されずにそのまま入っている。木箱のなかの野菜はビニール袋、ではなく新聞紙に包まれていた。そのほか、石鹸や洗剤などの日用品も扱っており、洗剤ももちろん量り売りだ。
実際にマイ容器を取り出して、気になる商品を購入させてもらった。店内にある秤で容器の重さを量り、そこにドライフルーツや切り干し大根を入れて重さをメモしていく。グラム当たりで値段が書いてあるのだけれど、自分が入れた量でいくらになるのか正直検討もつかない。それは値札が貼られた袋をカゴに入れていくのとはまったく違う体験で、「合計でいくらになるんだろう」とドキドキしながら容器に詰めていく。「何度も来ているうちに、なんとなく値段がわかるようになってきた」と、その場にいたお客さんは言っていた。
測っては入れ、入れては測り。時間はかかるけれど、自分が食べたいものだけ、食べたい分だけを容器に詰めていくのは楽しかった。触れてしまう恐れがないプラスチック包装の便利さも痛感するのと同時に、「袋に入っていなくても問題なく買い物できるものなんだな」と当たり前のことに気付かされる。
“きっかけはひとつの出会いから”をテーマに掲げるとおり、エコルシェ5302には「そうか!たしかに!」と思うような、リサイクルやアップサイクル(捨てられてしまうものの再活用)、思わず自分の生活を省みたくなる出会いがたくさんある。
お店の棚は、基本的に廃材と、知り合いや中古品の情報が集まる掲示板から受け取ったものばかり。お店のオープンのために新しく購入したのは、秤と商品を入れる瓶くらいだという。冷蔵庫まで人から譲ってもらったというから驚きだ。
「私たちもうっかり瓶を割るたびに『やっぱりプラスチックって便利だなあ、すごいなあ』って思うんですよ。軽いし、割れないし、きれいだしね。でも、なくてもいい場面もたくさんあると思っています。マイ容器がないお客様には、容器の貸出もしてるんですよ」
店主の神馬彩夏さん(通称:みうらん)と鈴木彩子さんにそう教えてもらって、空き瓶やお弁当箱が入った箱を見る。「ブーメランタッパー」と書かれた看板には、ここにある容器を持って帰ってもよいことと、家で不要な容器があったら持ってきてほしいことが書かれていた。お客さんが自宅から持ってきた空き瓶が、誰かのマイ容器となって持ち帰れる仕組みだ。
「『マイ容器がない』だけで買い物を諦めてほしくないですし、家に眠っている捨てたいけど捨てられない容器をここで引き取れたらと思って。場所によっては『あってよかった』と思ってもらえるものになるなら、巡ったらいいなと思ったんです。洗浄していても抵抗がある方に向けて、一応容器の販売もしていますよ」
家にある、次のゴミの日に出そうと思っていた容器たちの姿が浮かんだ。誰かにとっては「あってよかった」と再利用してもらえる場所が、ここにあったのか。今までは考えたこともなかった。
お店がオープンしたのは、2022年3月。3年前に同じ助産院で出産したママ友ふたりは、それまでまったく別の道を歩んできた。