店舗ができたことで、横須賀市の広報誌や地元メディアからの取材も増え、ふたりの動きはさらに加速していった。2022年10月には、横須賀中央駅にある大型総合ショッピングゾーン「横須賀モアーズシティ」での出張出店もおこない、500人以上が訪れる大盛況となった。彩子さんは「ずっと通っていたモアーズに出店する日が来るなんて」と笑う。
彩子さんは生まれも育ちも横須賀で、都内の大学に進学したものの「大好きな地元で働きたい」と就職を機に横須賀に戻ってきた生粋の「スカっ子」だ。
「暖かくて住みやすいし、コミュニティが狭すぎず広すぎず、ちょうどいいなと思います。会う人みんなに『横須賀いいよ、おいでよ』って言い続けています」
一方、みうらんは実はバリバリの「ハマっ子」。「横浜を出る日が来るとは思わなかった」というほどだったが、家の購入をきっかけに横須賀に引っ越した。しかし、以前は職場も遊びに行くのも基本的には横浜。横須賀との関係が大きく変わったのは子どもが生まれてからだ。
「子育てしてみて大変さを実感して、地域のママたちと一緒にコミュニティを始めたのが大きいかな。横須賀は、知れば知るほどおもしろい町。飲食店や農家さん、漁師さんなど、エネルギーがある人が多いなと思っています。今は、横須賀をいろんな人に知ってもらいたいと思いますね」
さらにエコルシェを始めて感じていることを、みうらんが教えてくれた。
「地域で新しいコミュニティができているのを感じています。地元のお客さんはエコルシェに買い物にきて、近くの飲食店さんでごはんを食べて、お菓子屋さんも知り合いで……みたいに、地域で新しいコミュニティが生まれている。これって新しい商店街がひとつできたみたいな感じだなと。それぞれの発信で外から人が来ることもあり、こうやって地域って活性化していくんだなって考えています」
"私たちが販売するものは、横須賀への愛と明日へのエネルギー"
エコルシェ5302のウェブサイトに書かれた一文には、ふたりの横須賀愛が感じられる。横須賀っていいね、横須賀のものっておいしいね、というお客さんの声が生産者、町の力になる。その思いが体現されるように、エコルシェ5302の店内には横須賀で作られた野菜、卵、お菓子などが並んでいるのだ。
「輸送にかかるエネルギーを考えて地産地消という考えもありますけど、その土地だからこその物、人、空気感が絶対にあると思っていて。そこで育ったものを、現地の人たちが食べることが大事だなって思います」
今、ふたりは新たに、ほかの町でもエコなマルシェを開くことができる「エコルシェバディ」という制度を始めた。ゴミを出さないマルシェの開催方法を伝える講座やサポートなどをおこない、日本中でエコなマルシェを広めていきたいという。
「最初にマルシェを『エコルシェ横須賀』って名付けたのは、横須賀だからこそのマルシェにしたかったから。これがエコルシェ札幌とかエコルシェ会津とか、いろんな町に同じスタイルでマルシェができたらいいなと思っているんです。規模の大小はあれど、どんな地域にも野菜やお菓子を作っている人はいるだろうし、福祉作業所で作られている商品もあるだろうし、その土地ならではの商品集めができるはず。そして、そこに住んでいる人がやることに意味があると思っています」
仲間を増やしたい、とふたりは言う。
「やっぱり、ふたりだけでは限界があるんですよね。各地域でエコなマルシェが増えていって、そこに住んでいる出店者さんやお客さんの当たり前が変わっていったら『この包装いらないんじゃない?』って思う人がどんどん増えていく。そういう人が増えたら、世の中のお店もどんどん変わっていく気がしませんか」
彩子さんが「エコを楽しむ人を増やしたい」とブログを始めたように、みうらんが「ゴミの出ない買い物を体験する場をつくりたい」とマルシェを思いついたように。このガソリンスタンドの一角にあるエコルシェ5302から、当たり前を変えていく。そうやって広がった波紋の先に、未来の「新しい当たり前」がある。