神奈川県鎌倉市
ノルウェーの民族音楽に欠かせない「ハーディングフェーレ」という楽器がある。ノルウェーにも5人ほどしかいないハーディングフェーレ職人が、なんと日本にいるという。今まで知らなかったノルウェーの景色に出会うため、北鎌倉に向かった。
最寄りのICから【E16】横浜横須賀道路「朝比奈IC」を下車
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「ハーディングフェーレ」
今まで、口にしたことがない単語だった。英語では、「ハルダンゲル地域のバイオリン」を意味する『ハルダンゲルフィドル』と呼ばれ、ハーディングフェーレはノルウェー語だそうだ。私が知っている唯一のノルウェー語かもしれない。
ノルウェーの民族音楽で演奏されるハーディングフェーレの音色は、その見た目どおり、たしかにヴァイオリンに似ている。大きな違いは「共鳴弦」と呼ばれる、ヴァイオリンにはない何本もの細い弦と、幾何学模様や植物を描いた装飾だろう。
ヴァイオリンと同じように弓で弾く弦とは別に、下のほうに張られている共鳴弦は、上で鳴らしたものと同じ音が鳴るようにできている。上の弦が止まったり他の音に移っても、共鳴弦でかすかに音が鳴り続けるので、響きや余韻が残る仕組みだ。ハーディングフェーレの音が「優しい響き」「厚みのある音」と表現されるのは、この共鳴弦の役割が大きい。
実際に楽器を触らせてもらって軽さに驚いた。細かい部分にまで手描きで装飾が描かれたり、貝殻などを削って埋め込んだりもしているので、重そうな印象があったが、重さはヴァイオリンとほとんど変わらず500グラムにも満たない。
「同じサイズや形、厚みで作ったとしても、木自体の違いもあるので重さは物によってまちまちです。軽くするために単純に薄く削ればいいというわけではなく、薄すぎても強度の問題があったり、いい音が出ないのが難しいところです」
楽器について丁寧に説明してくれたのが、日本で唯一、ハーディングフェーレの製作と修理ができる原圭佑さんだ。私がうずうずしているのが伝わったのか「弾いてみますか?」と優しく手渡してくれた。はい! 弾いてみたかったです!
左肩にハーディングフェーレを乗せ、右手に弓を持つ。原さんが見せてくれたようにスイーっと弦を引くと、弓に張られた馬毛が弦に当たり透明感のある音色が響いた。これは、気持ちいい!
「ハーディングフェーレをまったく知らない人が、この楽器の音を聴いてどういう印象を持つのか毎回新鮮ですね。僕は、もうノルウェーでのイメージが染み付いてしまっているので」
原さんは、ハーディングフェーレ職人になるために、2年間をノルウェーで過ごした。現地の職人のもとに住み修行をして、帰国したのが2017年のことだ。そもそも、なぜハーディングフェーレを作ろうと思ったのかが気になった。その原点は、原さんが高校生の時まで遡る。