未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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ノルウェーの風景が「聴こえる」 民族楽器ハーディングフェーレの音色

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.221 |10 November 2022
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#2父に手渡された『13歳のハローワーク』を読んで

「僕の名前のケイスケは、サザンオールスターズの桑田佳祐から来ているほどです」

バンドマンだった父親の影響で家には音楽が溢れており、原さんもお兄さんに続く形でギターを手に取った。中高生の時はバンドを組んで、サザンオールスターズやゆず、L'Arc-en-Cielなどを弾いていたという。音楽や演奏が好きで活動していたが、高校生になると進路という決断が迫ってきていた。

「当時はやりたいことがなくて、進路に悩んでいたんです。一般的にはやりたいことを見つけるために大学進学する人も多いと思うんですけど、僕はそういう考え方ができなかった」

なかなか進路を決められない原さんに、ある日父親が買ってきたのが、さまざまな職業を紹介する本『13歳のハローワーク』だった。好きな音楽に関わる仕事にはどんなものがあるのだろうとページをめくると、作曲家、サウンドエンジニア、音楽療法士など、プレーヤー以外にもたくさんの選択肢があることがわかった。そのなかで、原さんが惹かれたのが「楽器職人」だったのだ。

「もともと表に出るような性格ではなく、どっちかと言えばインドアで裏方が合っているタイプ。小さい頃からテレビゲームやパズルなど、ひとりで黙々とやるようなことが得意だったのもあって、自分のイメージに合ってるかなと思いました」

どうしてヴァイオリンだったのか聞くと、「たしか本の挿絵と説明文がヴァイオリンだったのかな」と笑った。それまで弾いてきたギターやベースとは違う、新しい楽器なのも魅力的だった。調べてみると、楽器としてもとても興味深く、原さんはヴァイオリンの世界にのめり込んでいった。さっそくヴァイオリンを買ってもらい、駅前の音楽教室で習い始め、高校卒業後にはイギリスにある職人になるための学校に留学することを決めた。

「先生たちには『もったいない、大学を出てからじゃだめなのか』って言われましたね。でも、職人の世界のことを調べると早いうちからやったほうが良さそうだとわかったんです。ヨーロッパでは15歳くらいから始めている人もいますし。だから、まずは若いうちに飛び込んでみよう、と」

リアル『耳をすませば』だ、と思いながら聞いていたら、よく質問されるのか原さんのほうから「ジブリの『耳をすませば』も好きな映画だったので、無意識にそのイメージもあったのかも」と教えてくれた。ただ、楽器職人になろうと決めた時は、映画のことはまったく思い出しもしなかったそうだ。その時に原さんが決意していたのは「一人前になるまでは辞めない」ということ。

「当時は実際の職人に会ったこともなかったし、職人の世界のことはなにもわかりませんでした。でも、仕事の良さって一人前になってからわかるものだと思っていたので、まず一人前になるまでは、という気持ちでイギリスに飛びました」

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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