イギリスでは、4年をかけてヴァイオリン製作を学んだ。通常は3年間の学校だったが、原さんはその前に1年間「基礎コース」を受講。道具の扱い方や楽器作りの基礎を学んでから、本格的なヴァイオリン製作に取り掛かった。
「1年生では木材からヴァイオリンの形を作るところまで。2年生になってようやくニス塗りや弦を張るなどの部分を学んで、弾ける状態の楽器が作れるようになります。修理と修復を学ぶのも2年生で、僕の場合はそこもしっかりと学びたいと思って学校を選んでいました」
言語はもちろん英語だが、実際に先生の実技を見ながら手を動かす授業だったため、わかりやすかった。また、世界中からの留学生が多い学校だったことも、原さんにとっては過ごしやすい環境だったそうだ。休みの日は、ヨーロッパ内にあるヴァイオリンの聖地を訪れたり、ミュージアムやオークションなどを見学して知見を深めた。
そうしてイギリスの学校を無事に卒業し、晴れてヴァイオリン職人となった原さんは、2011年、石川県金沢市の楽器店で楽器を修理するリペアマンとして就職した。
「その店では基本的にはお客さんと顔を合わせる機会はなく、上司が預かった楽器を直す形でした。でもある時、修理した楽器をお客さんに渡しに行った上司が、僕を呼んだんです」
原さんが応接室に行くと、そこには直したヴァイオリンと一緒に母娘が待っていた。娘の楽器を修理してくれた原さんに、直接お礼が言いたいと上司に呼んでもらったのだという。
「『本当によくなりました、ありがとうございます』って言ってくれました。最初はちょっとぽかんとしちゃって『そうですか、よかったです』みたいな返事しかできなかったんです。でも、その時にぽかんとしながらも『ああ、これだよな』って思ったのを覚えています。お客さんの役に立って、喜んでもらえて、感謝してもらえる。それがすごく嬉しいことだなって、自分の胸にぐっとくるものがあったんですよね」
今思えば当たり前のことなんだけど、と笑いながら振り返る原さんは、とても嬉しそうだった。この時から、原さんが働く理由のなかに「人の役に立つ」という軸ができていく。