未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
221

神奈川県鎌倉市

ノルウェーの民族音楽に欠かせない「ハーディングフェーレ」という楽器がある。ノルウェーにも5人ほどしかいないハーディングフェーレ職人が、なんと日本にいるという。今まで知らなかったノルウェーの景色に出会うため、北鎌倉に向かった。

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.221 |10 November 2022
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神奈川県鎌倉市

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#1日本にたったひとつのハーディングフェーレ工房

「ハーディングフェーレ」

今まで、口にしたことがない単語だった。英語では、「ハルダンゲル地域のバイオリン」を意味する『ハルダンゲルフィドル』と呼ばれ、ハーディングフェーレはノルウェー語だそうだ。私が知っている唯一のノルウェー語かもしれない。

ノルウェーの民族音楽で演奏されるハーディングフェーレの音色は、その見た目どおり、たしかにヴァイオリンに似ている。大きな違いは「共鳴弦」と呼ばれる、ヴァイオリンにはない何本もの細い弦と、幾何学模様や植物を描いた装飾だろう。

外側の弦の下に細かく張られているのが、ハーディングフェーレ特有の共鳴弦。

ヴァイオリンと同じように弓で弾く弦とは別に、下のほうに張られている共鳴弦は、上で鳴らしたものと同じ音が鳴るようにできている。上の弦が止まったり他の音に移っても、共鳴弦でかすかに音が鳴り続けるので、響きや余韻が残る仕組みだ。ハーディングフェーレの音が「優しい響き」「厚みのある音」と表現されるのは、この共鳴弦の役割が大きい。

貝殻を少しずつ削ってはめ込む、気の遠くなるような作業を経て生まれている模様。Youtubeに動画があるのでぜひ見てみてほしい。

実際に楽器を触らせてもらって軽さに驚いた。細かい部分にまで手描きで装飾が描かれたり、貝殻などを削って埋め込んだりもしているので、重そうな印象があったが、重さはヴァイオリンとほとんど変わらず500グラムにも満たない。

「同じサイズや形、厚みで作ったとしても、木自体の違いもあるので重さは物によってまちまちです。軽くするために単純に薄く削ればいいというわけではなく、薄すぎても強度の問題があったり、いい音が出ないのが難しいところです」

楽器について丁寧に説明してくれたのが、日本で唯一、ハーディングフェーレの製作と修理ができる原圭佑さんだ。私がうずうずしているのが伝わったのか「弾いてみますか?」と優しく手渡してくれた。はい! 弾いてみたかったです!

「指板」と呼ばれる指を置く部分と、「テールピース」と呼ばれる下の部分には、貝殻をはめ込んで幾何学模様が描かれている。

左肩にハーディングフェーレを乗せ、右手に弓を持つ。原さんが見せてくれたようにスイーっと弦を引くと、弓に張られた馬毛が弦に当たり透明感のある音色が響いた。これは、気持ちいい!

「ハーディングフェーレをまったく知らない人が、この楽器の音を聴いてどういう印象を持つのか毎回新鮮ですね。僕は、もうノルウェーでのイメージが染み付いてしまっているので」

原さんは、ハーディングフェーレ職人になるために、2年間をノルウェーで過ごした。現地の職人のもとに住み修行をして、帰国したのが2017年のことだ。そもそも、なぜハーディングフェーレを作ろうと思ったのかが気になった。その原点は、原さんが高校生の時まで遡る。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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