未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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日本唯一のユニバーサルシアター、シネマ・チュプキ・タバタはどうやって生まれたのか 田端の町の片隅に、チャップリンは流れた

文= 川内有緒
写真= 川内有緒・橘祐希
一部写真提供= シネマ・チュプキ・タバタ
未知の細道 No.218 |26 September 2022
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#9そして『街の灯』は流れた

寄付を募り始めてすぐに、驚きの出来事があった。
「最初に、まったく知らない方が500万円ぽーんって!」(平塚さん)

ええええーーー!! 話を聞く私も、思わず興奮で声をあげてしまった。
そ、それは篤志家の方だったんですか?

「たまたまクラウドファンディングに載せた私たちの文章を読んだだけで、寄付してくださった方でした。あとから聞いたところによると、その人は、ずっと仕事命の人生であまり良いことができなかったという後悔があって、ぜひ役立ててほしいとのことでした。足長おじさんって本当にいるんだなって思いました」

シティ・ライツの会員、それまで平塚さんが出会ってきた人々、そして見ず知らずの人も大勢支援してくれた。なかには100万円を支援してくれた視覚障害者もいた。すごい!

「きっと映画館を作るって、一世一代の夢だってわかってくれたのではないでしょうか」と平塚さんは言う。

確かにそうかもしれない。平塚さんたちやシティ・ライツにとって、映画館はちょっとした思いつきなどではなかった。長年にわたりひとつずつ課題を解決し、それを次の行動に繋げ、映画を通じて人を喜ばせることに人生をかけてきた、そんな人たちがいま新しい夢の映画館を作りたいと聞いたら、応援したくなって当然だろう。

最終的に集まった募金は、目標額を上回る1,880万円に達した。

そして迎えた2016年9月1日。
商店街の一角にシネマ・チュプキ・タバタは産声をあげた。
チュプキとはアイヌ語で「自然の光」という意味である。

わずか20席の映画館。小さくとも志は大きい映画館の船出だった。
最初にそこで上映された映画は……もうお分かりだろう。

チャップリンの『街の灯』だった。

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