未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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日本唯一のユニバーサルシアター、シネマ・チュプキ・タバタはどうやって生まれたのか 田端の町の片隅に、チャップリンは流れた

文= 川内有緒
写真= 川内有緒・橘祐希
一部写真提供= シネマ・チュプキ・タバタ
未知の細道 No.218 |26 September 2022
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#8そこにスクリーンが見えた

先にも書いた通り、映画館を作るためには、法律に沿った厳しい基準を満たさないといけない。以前、私が関西で取材したミニシアターは元パチンコ屋だった建物を改装したそうだが、そもそも映画館向けに改装できる建物を見つけるのが大変だったそうだ。しかも、平塚さんは駅からのアクセスなど立地にもこだわっていた。夢のユニバーサルシアターには、誰もが安全に、そして簡単に来られる場所でなければならない。

当然のことながらそんな物件は、簡単には転がっていなかった。
「既存のビルで映画館を作るなんて無理なのかも」と諦めかけはじめた平塚さん。とりあえず、上映スペースは無理でも、音声ガイドを作るスタジオだけでも借りなくては、と考えた。

事務所利用もできる防音室付きの住宅物件を見つけ、内見に行った。その物件は田端駅から近い商店街のなかにある新築ビルの2階。ふと見ると、1階の路面店も空いていて「テナント募集」の張り紙が。すかさず「ちょっと一階のほうも見せてもらっていいですか」と不動産屋さんに声をかけた。

間口はそう広くないが奥に長い建物で、スケルトンの状態だった。

「奥まで進むとどんつきの壁がありました。その壁を見た時に、もう見えてしまったんです。そこにスクリーンがある光景が。あ、ここ、小さいけど、映画館ができるかもって」

――探していた場所は、ここなのかもしれない――

そう思った平塚さんは、実現に向かって動き始めた。大きなネックのひとつが消防法で、ビル自体が防火基準を満たしていなければ、そこで話は終わってしまう。すぐに調べてもらうと、中華料理屋や焼肉店などの「重飲食」と呼ばれる飲食店も入れるような防火性の高いビルだということがわかった。その他の条件も無事にクリアし、営業申請も取り付けた。夢の映画館に王手がかかった。

最後に立ちはだかったのは資金だった。見積もりによれば、防音・換気工事など内装工事費が約1250万円、そして音響・映写設備費で約250万円、あわせて1500万が必要になる。初期投資としては途方もない数字である。

そこで平塚さんたちは、寄付とクラウドファンディングを募ることにした。
目標額は1800万円。控えめにいっても、かなりの額だ。
「ぶっちゃけ……集まる自信もなくて、いちかばちかです。もう不安でした」

ところが、すぐにその不安を吹っ飛ばす出来事が起こった。

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